海の向こうの帳簿
サルディア王国の港務局では、拿捕した船の税をめぐる返答が王都から届いた。税務官エルナが封を開けると、過去の税を認めない決定が記されていた。ただし船員の労働日数については何も書かれていない。
長官は徴税の成功を報告するよう命じた。エルナは船員が港で働いた日数と、渡された食料の量を別紙にまとめた。働いた者に賃金を払わなければ、捕虜と変わらないという疑問が消えなかった。
船長は釈放を求めた。税を払う金はないが、島へ戻れば魚を売れる。長官は船を返す許可がないと告げた。
エルナは王都へ再び問い合わせた。荷を売却した場合、誰に代金が入るのか。国庫へ納めるなら、船員への賃金と相殺できるのか。質問は細かく、答えが出るまで時間がかかる。
港の市場では魚が不足し、王国の兵舎でも保存食が減っていた。拿捕した船を倉に置いておくほど、港の仕事は滞る。
ある夕方、倉庫番がエルナへ人形の箱を持って来た。布が湿気を吸い、色が移り始めているという。彼女は乾いた棚へ移すよう頼み、届け先の島名をもう一度確かめた。
問い合わせの返事を運ぶ船が出るまで、エルナは港の掲示板へ捕らえられた船員の名を載せたいと考えた。だが島の出身者が名を見れば、彼らの家族へ報復が及ぶかもしれない。彼女は公開できる人数だけを記し、名前は家族から照会があった場合に限って確かめる方法を選んだ。港で働く船員たちにも、黙っていることで守れる者がいると知った。
海の向こうにいる子どもたちは、どの王の印が箱に押されたかなど知らない。エルナは帳簿へ箱の保管場所を書き添えた。税の数字を揃えるだけでは、港の中で失われるものが見えなかった。




