王領の古い誓い
南西の王領では、国王の使者が国境の砦を巡っていた。三市連邦と共同修理を進める将校に、古い誓約文を読み上げさせるためだった。誓約には、王の命令をいかなる場合も優先するとある。
将校は誓約に従った。しかし排水路の工事を止めれば、王領の畑も水を失うことを説明した。使者は、必要なら王都が新たな命令を出すと答えた。
工事現場では連邦の石工が待っていた。彼らは剣を持たないが、作業を続けるには王領の兵による通行許可が要る。
将校は作業を一日だけ延ばす許可を与えた。使者は不満そうだったが、現場の安全確認として報告することを認めた。
その夜、将校は誓約文の写しを読み直した。王のために忠実であることと、王領の畑を守ることが同じだとは限らない。だがその違いを公に言えば、部下が命令を信じなくなるかもしれない。
翌朝、排水路の蓋が外れ、詰まっていた流木が引き出された。水は王領側の畑へ戻り始めた。連邦の職人が泥だらけで笑ったが、将校は礼を言わなかった。
将校は工事現場に集まった兵の食料を調べ、連邦から来た職人には王領の配給が渡らないことを知った。彼らは自分たちで乾いたパンを持ってきていたが、帰路が遅れれば足りなくなる。将校は共用の炉を使う許可を与えた。軍の秘密を守るという理由で火を分けないのは、ここでは無用な敵意を増やすだけだった。使者は不満げだったが、命令文には炉のことまで書かれていなかった。
昼過ぎ、王都から新しい封書が届いた。工事を正式に認めるかわりに、連邦へ渡す税を増やせという。将校は封を閉じ、まず作業を終えた職人たちが無事に帰れる道を確かめた。




