三市の境界杭
青盾連邦のフェラト市で、隣の市との境界杭が抜かれていた。外敵との戦争ではない。井戸の水を引くために掘った溝が、古い市境を越えたのだ。井戸を直す職人は境界を知らず、土地を管理する役人は工事を知らなかった。
評議会に訴えが届き、三市の代表が現場へ集まった。フェラトの議員は溝を埋めろと命じ、井戸のある市は住民が渇くと反論した。調停官ユリウスは泥に埋もれた杭を掘り出し、どこに立っていたのか確かめるよう求めた。
老農夫が現れ、杭は何年も前に洪水で流れたと話した。新しく立てた位置が昔と違う可能性がある。彼の証言だけでは証拠にならないと議員は言った。
ユリウスは当時の税の記録を探させた。どの市が畑の収穫を数えていたか分かれば、境界を考える手がかりになる。
調査の間も井戸は使われた。水を止めれば、どちらの市の子どもも困るからだ。議員たちは工事現場の見張りを増やしたが、剣を抜くなと命じた。
夕方、老農夫は杭の古い傷を見つけた。子どもの頃に自分が刻んだ印だという。議員は笑いかけたが、傷は確かに長く風雨に晒されていた。
税の帳面が見つかると、両市の徴収地は年ごとに違っていた。洪水の後に境界を変えた記録があり、役人の署名だけが残っている。ユリウスは一方の市が嘘をついたとは断定しなかった。土地が変われば管理する人間も変わる。彼は畑の利用者を集め、税を納めた先とは別に、実際に水を引いていた年を聞き取った。杭の位置より長い時間がそこに積もっていた。
境界はその日に決まらなかった。溝には水が流れ続け、市の役人は交代で水量を測った。互いを疑うことと水が必要なことは、同じ場所に並んでいた。




