雨水の境界
堰の水番ミラは、橋の避難民地区で汚れた井戸の話を聞いた。彼女の管理する水路は遠いが、同じ地下水に繋がっている可能性があった。橋へ来た医師テラは、水がどこを通ったか調べてほしいと頼んだ。
ミラは川岸の土を掘り、雨のあとに濁る場所を探した。堰の修理をした石工ベルクも同行し、古い排水路の跡を見つけた。地図には載らない水の通り道だった。
東岸の村では、この排水路は西岸の領分だと言う者がいた。西岸の役人は東岸から流れた泥が原因だと疑った。互いの主張は、病人が増えている間にも続いた。
ミラは水位と濁りを別の地点で測り、雨が降った時刻を書いた。責任を決めるより先に、水がどちらへ流れているかを知らなければならない。
調査で分かったのは、古い地下の溝が両岸の地面を斜めに横切っていることだった。昔は工場の排水に使われていたらしいが、今は水路を知る者がいない。
ベルクは溝を埋める案を出しかけたが、塞げば雨水が別の井戸へ集まる危険があると気づいた。まず出口を清掃し、濁った水が飲用井戸へ入らないよう分けることにした。
古い排水溝から、読めない印の付いた金属板が見つかった。ベルクは人々が触れない場所に運び、崩れている壁だけを確かめた。第三次世界大戦以前の設備には、今の職人が扱い方を知らないものが多い。無理に壊せば地下の流れを変える危険があった。ミラは古い物の名前が分からなくても、周りの水がどの方向へ動くか記録することならできた。
作業が終わった夕方、ミラは帳面へ小さな線を足した。国境線よりずっと古い地下水の道だった。そこには東も西も書かれていなかった。




