谷に残る盾
ラウゼの仮住まいに近い谷で、食料を積んだ荷車が襲われた。剣と盾を持つ二十人ほどの集団が、夕暮れの細道を塞いだのだ。運び手が叫ぶと、谷の見張りは鐘を二度鳴らした。
ラギアは兵を連れて駆けつけた。坂道は雪解け水で濡れ、荷車は片輪を溝へ落としていた。襲撃者は麦袋を担いで森へ入ろうとしている。
「追うな。車を守れ」
兵の一人は敵の背を斬りに行こうとしたが、ラギアは盾で道を塞いだ。森には別の部隊が潜んでいるかもしれない。敵の数も所属も確かではなかった。
しかし襲撃者の三人が引き返し、荷車の横へ突っ込んできた。盾の縁がぶつかり、ぬかるみに足を取られた若い兵が倒れた。ラギアは低く盾を構え、隣の兵と間を詰めて押し返した。短い剣が盾の裏へ滑り込み、双方に負傷者が出た。
森の集団は奪った二袋を抱えて退いた。谷に残ったのは壊れた車輪と、腕を負傷した襲撃者一人だった。捕らえた男の盾には、ミシュラともラウゼとも違う紋があった。
イザクは男へ所属を尋ねた。男は答えず、まず水を求めた。ラギアは拘束を解かず、水だけ渡した。
襲撃を知らせた見張りの鐘は、近くの農家にも聞こえていた。子どもを連れて森へ逃げた家族もあり、夜遅くまで行方を確かめる声が続いた。イザクは兵に追跡の命令を出さず、まず帰らない家族がいないか調べさせた。奪った麦を抱えた者たちは、空腹の集団か、どこかの軍の先遣か。捕虜の答えを聞く前に敵の旗を決めれば、別の戦いを始めることになる。
翌朝、若い兵は倒れたときの泥を盾から拭いていた。「峠の連中ですか」と尋ねると、ラギアは「まだ分からない」と答えた。奪われた麦を戻す必要も、捕らえた男の行き先を決める必要も残っている。谷では農夫たちが壊れた車輪を起こし、途中までこぼれた麦を集めていた。




