兵舎の春暦
ラウゼの仮住まいで、避難民は春の作業日を決め始めていた。種を蒔くには畑を借り、井戸を増やし、家畜の糞を集める必要がある。しかし借りられる土地は少なく、もとの住人から不満が出ていた。
イザクは軍の土地を使わせると約束できなかった。彼自身が借り住まいをしているからだ。そこで谷の村長と農夫たちを集め、作業の順番を決めてもらった。
村の若者は、避難民が肥えた畑を使えば自分たちの収穫が減ると主張した。マルナは、最初の年は荒れ地を耕し、収穫の一部を村へ渡す案を出した。
荒れ地は石が多く、鍬の刃がすぐ欠けた。負傷兵が石を拾い、子どもが小さな山を作った。剣を持てない者も、畑では働けた。
イザクは兵の訓練日を減らし、農作業へ人を回した。ラギアは反対した。峠が再び戦場になれば、村を守れる兵が必要だからだ。
二人は議論し、朝の訓練だけを残すことにした。午後は畑へ行き、夜の見張りは交代する。疲れが増えることも分かっていた。
石を拾う作業を始めると、谷の農夫は避難民が畑の端を踏み荒らしていると訴えた。マルナは通る道へ細い縄を張り、人が作物へ入らないようにした。借りた土地は何をしてもよい場所ではない。子どもたちは拾った石を積む位置を覚え、何度も同じ道を行き来した。陽が傾く頃、小さな石の山ができた。まだ種は蒔かれていないが、昨日より畑の形が見えてきた。
春暦の最初の頁には、苗を植える日より先に石を集める日が書かれた。避難民の子どもはそれを見て、「種はまだなの」と尋ねた。マルナは土を握り、ここで芽を出すには先に場所を作らなければならないと答えた。




