峠の白い影
北方の見張りが、夜明けに峠を越える白い影を見つけた。近づくと、それは雪を被った盾だった。盾を持つ兵たちは無地の外套を着ており、所属が分からない。先頭の男はグラウゼンの道を求めて来たと告げた。
彼らは北の小国アスタレの残兵だった。国境の小さな砦が陥落し、生き残った者が山を越えているという。ミシュラ軍と戦ったのかとセリアが尋ねると、男は首を振った。別の勢力が南から攻めてきたのだ。
男の盾には見たことのない三角形の印があった。どの国のものか分からず、斥候は敵の偽装を疑った。
セリアは武器を預かり、兵の数と故郷を記録させた。滞在場所を設ける代わりに、連合の軍事施設へは近づかないことを条件とした。
その中に若い女兵がいた。彼女は負傷した仲間を背負って峠を下りたため、足が腫れていた。「砦は守れなかった」と繰り返す彼女に、医師はまず靴を脱ぐよう言った。
報告書を受け取ったアーネは地図を広げた。アスタレの名は古い境界の隅に小さく記されているだけだった。連合ではほとんど知られない国でも、そこに暮らす人は毎日井戸から水を汲み、畑を耕していた。
アスタレの残兵は、砦を捨てる前に村の井戸へ蓋をしたという。敵が毒を入れるのを防ぐためではなく、戦う間に子どもが落ちないようにするためだった。その些細な話に、セリアは耳を留めた。砦が失われても村の仕事を覚えている者がいる。残兵を尋問する軍の書記は、敵軍の旗と人数だけでなく、避難してきた家族の行き先も聞いた。地図の余白が少し足りなくなった。
夜、女兵は預けた盾の行方を尋ねた。セリアは返す日を約束せず、保管場所だけ教えた。北の国境に、今まで知られていなかった戦争の知らせが一つ増えた。




