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第8話 巣鴨十月-コラボ発動

巣鴨 十月(とつき)の配信の売りは本格的なバンドライブ配信だ。

実際には演奏は録音済みの音源を流し、ボーカルだけがライブで歌う。

そして、臨場感を出すために、バンドのメンバーの3Dアバターが十月の背後で演奏する演出となっている。


「十月さん、準備いいっすか?」

「いつでもいいぜ」

十月が親指を立てて青木くんに応える。


ピアノのイントロが数小節流れた後、突然、大音量のドラムのフィルインからギターとベースのリフが始まる。

その音に負けない十月の歌声が響く。

十月のアバターが画面上で激しくリズムを刻む。

チラッとスタジオに目をやると、アバターと殆ど変わらない姿で、十月が熱唱しているのが見えた。

その横で、青木くんが似合わないヘッドバッキングをやっていた。


――あいつ、ノリノリじゃない。

アリスが吹き出しそうになる。

コメント欄にファンの声援が高速で流れていく。


――ヘビメタも良いけど、あの子、"歌ってみた"とかやってくれないかしらね。

VTuberにとって"歌ってみた"と"踊ってみた"のコンテンツは鉄板だ。

人気が出れば、再生数が大幅に稼げる上に、何年も続けて視聴される長寿動画にもなり得る。


そんなことを考えながらコメント欄を眺めていると、見慣れた名前が流れて行った。

――え?今のは……


都内のマンションの1室。

「やばっ」

品川りもあは慌てて動画を閉じた。


YouTubeのアカウントをプライベートのアドレスに切り替えて、再びライブ配信を再生する。

間違えて、配信用の事務所のアカウントを使ってログインしていたのだ。


そこで、つい、いつものように「トゲ様愛してるー」と打ってしまった。

――誰も気がついていないわよね。


部屋の壁には巣鴨十月のポスターが貼ってあり、机の上には十月のグッズがところ狭しと並んでいた。

パソコンの壁紙も巣鴨十月だ。

ライブのCDやDVDも全部揃ってる。


りもあは気を取り直して、十月のライブ配信に集中する。

――せっかく同じ事務所に入ったんだから、いつかコラボとかやりたいな

トゲ様と二人でスタジオお喋りするのを想像する。

――いや、やっぱり絶対ダメだ。上がってしまって、変な子だと思われちゃう。最悪、化け猫化だ。


妄想から抜けて画面に目を戻す。

すると、コメント欄では、品川りもあと名乗るアカウントが、十月にラブコールを送っていた事が話題になっていた。

りもあの血の気が抜けた。


「青木くん、Discordでりもあに繋がる?」

流れるコメントを見ながらアリスが青木くんに指示を出す。

「えーと、オンラインですね」

青木くんの焦った声。

「よし。行けるわね」

アリスが気合を入れる。

「品川りもあに連絡して、ライブ配信に凸らせるわよ」

「え?」

「突発で二人の初コラボやるわ」

「わ、分かりました」

青木くんが慌ただしく動く。


――あの子がうちのような弱小事務所に来た理由は、これだったのね。

アリスは妙に納得していた。


品川りもあはDiscordですぐに繋がった。

「きっと、成りすましですね。困ったわ」

りもあが無理のある演技をしていたが、今はバレていないことにする。

「じゃ、成りすましで押し通すわよ」

アリスはりもあに腹を括らせる。

青木くんがコラボのやり方を説明して、準備を整える。


十月の歌が終わり、トークが始まる。

品川りもあが凸るのは十月には内緒だ。

トークの途中に突っ込む手筈となっている。


「俺はみんなに一言いいたい事がある」

突然、十月が語り出した。いつものお約束のやり取りだ。

「俺はトゲじゃない。十月だ。と、つ、き。分かってるか?」


〈トゲ様、格好いい〉

〈トゲ様はトゲ様ですー〉

〈そう呼ばせて下さい〉

〈とげちゃん、無理せんでも良いからのお〉


コメント欄が再び盛り上がる。


「青木くん、今よ。早速始めて」

「へーい。いくっす」

配信画面に電話の音が鳴る。そして受話器を取る音。どちらも単なる効果音だ。


「もしもしー」

品川りもあの澄んだ声が響いた。

「はい?どちら様」

十月の怪訝そうな声。

「わたし、事務所せいんと新人の品川りもあっていいます。凸らせてもらっていいですか?」


そして、巣鴨十月のアバターの隣に、

品川りもあの清楚なアバターが現れた。

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