第5話 品川りもあ - ライブ中
配信は予定通り続く。
「では、私の好きなボカロPさんの曲」
「『明日の君は昨日から寝てない』です。聴いてね」
前奏。
クルクルと回って、衣装の後ろもしっかり見せる。
そして、品川りもあが歌い始める。
――悪くはないけど、歌姫って程ではないわね
アリスの評価は厳しい。
――他に何か売りが欲しいわ
歌の間は特に操作は必要ない。
「社長、今いいっすか?」
手の空いた青木くんがパソコンを片手に近づいてくる。
「このXの書き込み、バズってるっす」
「え?例のパパ活の件?」
慌てて画面を見せて貰う。
〈新人VTuber 品川りもあから「パパ見てるー?」と呼びかけがあった模様。私がパパなので行って来る〉
「これって、あのサッカーの中年男性の書き込みかしら?」
アリスは焦った。
「違うんじゃないっすか。だって、このあと続けてコメントやRTが凄いっすよ」
〈俺もパパだが、召喚された〉
〈娘が呼んでるので行かなきゃ〉
〈パパですよ。待っててくれ〉
〈僕もパパでーす。独身だけど〉
アリスが青ざめる。
「『パパ見てるー』が、Xのトレンド入りしてるっす」
青木くんが興奮した声で続けた。
「これは伸びるっすよ」
アリスは視線を配信の画面に戻した。
目を見張った。
同時接続数が8,000を超えている。
「配信のコメントは?」
「こんな感じっす」
〈呼ばれて来ました〉
〈パパです〉
〈俺がパパです〉
〈みんなパパ?〉
〈私が本当のパパです〉
配信のコメントは、パパ達の書き込みで溢れかえっていた。
――なによ、これ。
――あの子、こんなにパパ活やってるの?
「社長、同時接続数が10,000超えました!」
青木くんの嬉しそうな声。
「このまま行くわよ」
――売れればいいのよ
アリスは言葉を飲み込む。
気持ちを配信に戻して集中する。
「青木くん、歌が終わったら、りもあに接続数を伝えてあげて」
「へーい。きっと大喜びっすよ」
青木くんはスタジオに戻って行った。
品川りもあの歌が終わった。
そして、台本通り、グッズの紹介をやっている。
「缶バッジもうちわも、衣装ごとに2種類あるから、両方買ってくれると嬉しいなー」
「ボイスデータは三種類入っててお得だよ」
品川りもあのセールストークが続く。
「じゃあ、次のコーナーに行くね。えいっ」
掛け声で衣装が変わる。
フレアスカートとクロップドジャケットのキレイめファッション。
イベント用衣装よりも落ち着いた雰囲気だ。
「さっきのはイベント用だから、普段はこっちの衣装なの。可愛いでしょ」
コメント欄がかわいいの文字で埋め尽くされる。
そして、ちらっと青木くんの方を見る。
青木くんはボードを掲げている。
〈同時接続数、二万人超え〉
突如、品川りもあの動きが止まった。
下を向いて震えている。
「え?」
「え?」
アリスと青木くんが同時に立ち上がった。
その直後にりもあが叫んだ。
「あ、あたし、極度のあがり症で……」
「大勢の前だとダメなんですー」
そして、スタジオから逃げだそうと出口に突進した。
「あ、ダメ。青木くん、スタジオのドア締めて!」
がしゃーん
りもあが派手にドアにぶつかった。
「何するにゃー」
りもあが痛そうに立ち上がる。
「ごめん、りもあさん、大丈夫?」
青木くんが申し訳なさそうに謝る。
ドアは押さえたままだ。
――今、にゃーって言った?
アリスは困惑しながら、スタジオと配信画面を交互に見る。
配信画面には、右に左に暴れる品川りもあの姿が映し出される。
「恥ずかしいのにゃーっ」
「見ないで欲しいにゃーっ」
コメント欄も大騒ぎだ。
〈ネコ語?〉
〈なんで突然?〉
〈演出すご過ぎ〉
〈化け猫?〉
〈化け猫だ〉
〈化け猫降臨〉
「うるさいにゃー、ほっといて欲しいにゃー」
りもあがキレる。
アリスもどうしていいか分からない。
――でも、接続数は伸びてるわ
そして、見守ることにする。
品川りもあは、にゃーにゃー言いながら一通り騒いだ後、スタジオのコンソールに気がついた。
そして、そこにある一つのスイッチ目がけて突進した。
配信を切るつもりだ。
「りもあさん、それは違うっす!」
「YouTube用の実写カメラっすよ」
青木くんがスタジオのドアを開けて飛び込む。
品川りもあがスイッチを入れた瞬間、カメラの前に立ちはだかる。
「青木くん!」
アリスが叫ぶ。
配信の映像には、画面いっぱいに青木くんの顔が映し出されていた。
コメント欄が高速で流れる。
〈青木くん?〉
〈青木くん可愛い〉
〈これも演出?〉
〈青木くん喋って〉
〈青木くーん〉
「えっと、今日はこれで終わりっす」
そして青木くんはカメラのスイッチを切った。
同時接続数は三万人を超えていた。
「ごめんにゃー」
品川りもあが謝った。




