第20話 渋谷ぱる子 - ライバル
――青木くんと別れて三ヶ月か……
渋谷ぱる子は整形外科で次の予約を決めてからカレンダーを見てため息をつく。
指の骨折は順調に回復しており、来週からリハビリが始まる。
待合室で会計を待ちながらスマホをいじっていると、巣鴨 十月からチャットで連絡が入った。
『そっち行っていいか?一緒にめしでも食おうぜ』
ぱる子と十月は事務所に入った時期が同じだったが、それほど交流は無かった。前に、何度か一緒にご飯を食べに行った程度だ。
そのため、断ってしまおうかと思った。
ただ、代打で恋愛相談コーナーをやってくれた恩もある。
そして、ぱる子は十月の配信を見て感動した。その話を少し聞きたくなった。
――気晴らしにいいかな。
ぱる子は意を決して、チャットに文字を打ち込んだ。
『りょーかい。どこかいいお店ある?』
十月から即座に返事が来た。
お店の場所と時間付きだ。
――すでに予約してんじゃん。
ぱる子は苦笑して、オーケーと返信した。
お店は海鮮居酒屋だった。
ぱる子が入り口で予約の名前を言うと、個室に通された。
そして、十月が1人で手持ち無沙汰で待っていた。
「ひっさしぶりー。先に飲んで待ってりゃいいのに」
ぱる子は掘りごたつ風の席に滑り込む。
十月は、よおと一言挨拶してから続けて言った。
「そんなこと出来っかよ。お前と乾杯してからだろ」
そして、嬉しそうに生ビールを二人分オーダーしてくれた。
まずは乾杯だ。
「うめー」
「おいしー」
二人で豪快にビールを一口飲む。
そして、刺身とつまみを見繕って注文する。
ここで一段落だ。
「指は大丈夫なのか?右手使えないと不便だろう」
十月が心配そうに聞く。
「意外と3本だけでも使えるんだー」
そう言って、ぱる子は箸を3本の指で器用に動かす。
「ほら、左手でも行けるっしょ」
箸を左手に持ち替えて見せる。
十月は本気で驚いたような顔をして言った。
「お前、うちのドラマーよりも器用だな」
そして、ぱる子の顔をじっと見た。
「ちょっと痩せたな」
そして、刺身に箸を向けた。
――心配してくれてたのかな。
ぱる子はちょっと申し訳ない気持ちになった。
「そうそう。恋愛相談コーナー、ありがとうね。来週からあたいがやるから安心して」
「それは助かる」
十月が心底ほっとしたような声を出した。
次回の恋愛相談コーナーは来週に予定されている。
ぱる子からアリス社長には、自分がやると連絡してある。
ぱる子復帰第一弾のライブ配信だ。
自宅からの配信だから、青木くんにも直接合わなくて済む。
しかし、少し憂鬱だった。恋愛で失敗した自分が相談を受けることに、後ろめたさも感じていた。
ただ、十月回の評判が良かったのが気になっていた。十月に番組を取られてしまうのは嫌だった。
「十月ちゃんの配信、凄く良かったよ」
「ば、ばか言え。あんなの、俺には無理だったよ」
「最初はハラハラしたけど……」
ぱる子が内容を思い出しながら続ける。
「好きじゃない人とデートした話。十月ちゃんらしかった」
一瞬の間。
「あれって、実話なの?」
「うん。そうだな」
十月は考え込むような顔をして、しばらく黙った。
「あたしさ、最近失敗しちゃって」
ぱる子が続ける。
「自分のことばっかで、相手の事なんて分かろうとして無かったのかなーって」
1拍
「十月ちゃんのことも、意外と知らないしなー」
そして、ビールを飲み干す。
「だから、今日誘ってくれてありがとうね」
「あのさ」
十月が話し始める。
そして、ビールを一口飲む。
十月の喉が大きく動く。
「お前、青木ってどう思う?」
「え?」
ぱる子は、突然出た名前に焦る。
――バレてる?
「べ、別に……」
慌てて答える。
「意外といい奴だよな」
――え?どういうこと?
「あの……デートした相手って……青木なんだ」
――え?え?
「その後、なんか気になっちまって」
――えぇっ!?
ぱる子は目を丸くして前を見つめた。
そこには、顔を真っ赤にしてうつむく十月がいた。




