表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
21/21

第21話 渋谷ぱる子 - 匿名希望

――いいんじゃない。応援するよ。

――なんで、あんなこと言ったんだろう……

渋谷ぱる子は、ずっと後悔していた。

あの後、巣鴨 十月(とつき)とどんな会話をしたのか全く覚えていなかった。

ただ、『いいんじゃない。応援するよ』と言った自分の言葉が、ぐるぐると頭の中を駆け巡っていた。


『ぱる子さん、そろそろ時間です。スタンバイお願いします』

Discordにチャットのメッセージが入る。青木くんからだ。いつもより丁寧すぎて冷たく感じる。

――しかも、今日はアリス社長がやるって聞いてたって。私って知った途端に焦ってるし。


ぱる子は、なんとか怒りを抑えた。


――気持ちを切り替えなきゃ

気を取り直して『ぱる子恋愛相談コーナー』のライブ配信開始までのカウントダウンを見つめる。


テーマ曲が流れ始めた。ライブ配信開始だ。

「みんな、いい恋してるかな。『ぱる子恋愛相談コーナー』の時間だよ」

ぱる子は声を張ってコールをする。


「どけどけ 渋谷ぱる子のお通りだい」

「あたいの必殺トリック見せたげる」

軽手の動きだけでポージング。

「今日から、あたし、渋谷ぱる子が復活しました-」

満面の笑みを浮かべてカメラを見つめる。

コメント欄が盛り上がる。


〈ぱる子ちゃんお帰り〉

〈待ってたよ〉

〈ぱる子可愛いー〉

〈ひさしぶりー〉


「みんなー、元気してた-?しばらくお休みしててごめんね」

「あたしさー、これ見て」

右手をカメラに見せる。


アバターの指に包帯が巻かれている。

「スケボーで怪我しちゃって。本当に指が折れちゃって」

「嘘じゃないよ。本当だってば」


慌てたふりをして手を振る。

「でもね、へへーんっ」

ぱる子が包帯をくるくると取って行く。

「じゃーん、治りましたー!」

包帯のない右手を見せる。


「みんなも怪我には気をつけてね。治るまでがほーんとに大変」

「でもね、恋愛の傷はぱる子が治してあげるからねー」


『ぱる子ちゃん、いいわね。その調子よ』

飛鳥部アリス社長からのメッセージが入る。


〈俺の傷を治してくれー〉

〈怪我大丈夫?〉

〈ぱる子無理しないで〉


「みんな、ありがとう」

ニコッと微笑む。

「じゃあ、最初のマシュマロから行きますね」

「ももかちゃん(11歳)からの相談です」

そして、画面を読み上げる。

「私は男の子が嫌いです。ガサツだし、乱暴だし、女の子同士の方が全然楽しいです。男の子との恋愛って必要ですか?」


「そうね」

ぱる子は上を向いて少し考える。

「いらないかもね。確かに、女の子同士の方が楽しいよね」


〈いつもと違う?〉

〈百合……〉

〈ぱる子様、男を見捨てないで〉


そして、コメント欄を一瞥して言った。

「男の人たち、もっと女の子に優しくね」

「じゃあ、次」

咳払い。

「匿名希望 Aさんからです」

「うわぁ、長文ですね。えーと」


「俺には半年付き合った彼女がいました」

一旦切る。

「過去形ですね。どうしたのかなー」

そして、飲み物を飲んで続ける。


「その子の事は、ずっと前から可愛いと思っていたけれど、全く相手にされませんでした。半年以上、名前も覚えて貰えませんでした」


ぱる子は夢中になって続きを読み上げる。


「明るくて無邪気でいつも日焼けしてて、太陽のような眩しい女の子です。その反面、俺は暗くてオタクで家に籠もっていてばかりで、俺には縁のない子だと思ってました」


「でも、とある人がきっかけを作ってくれて、名前も覚えて貰って、LINEまで交換出来たんです。俺は、もうそれで十分だと思ってました。俺よりも相応しい奴がいっぱいいて、きっと、彼氏もいるんだろうなと諦めてました」


「ところが、奇跡が起きたんです。彼女が俺のことを好きだと言ってくれた。信じられなかった。夢かと思いました」


「それから、すっと楽しくて幸せだった。このままずっと続くと思ってた。でも、それをぶち壊したのは、俺でした」


ぱる子の声は、涙声になっていた。


「俺のくだらないプライドや意地のせいで、全部消えてしまった。後悔しかないです。でも、謝ればいいのに、怖くて謝れないんです」


「そんな馬鹿な俺を叱ってくれませんか?そして、勇気をくれませんか?背中を押してくれませんか?」


しばらくの間、微かにぱる子の啜り泣く声だけが響いた。


そして、ぱる子が話し始める。

「あなたは馬鹿よ!大馬鹿者よ!」

「バカ、バカ、バカ、バカ……」


そして、ふふっと笑った。

「叱ったわよ。気が済んだ?」

声を張る。

「じゃあ、勇気を持って、行ってらっしゃい。逃げちゃダメよ」

「きっと、その子は待ってるからね」


そして、ぱる子は画面に向かって一礼した。

「ごめんね。今日はこれでおしまいです」

カメラが切れて画面が暗転した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ