第18話 渋谷ぱる子 - きっかけ
――最初はめんどくさい奴だと思ってた。
渋谷ぱる子は青木くんとの出会いを思い出す。
「おっはようございますー」
ぱる子は、せいんとのオフィスに着くなり大声で挨拶した。
「ぱる子ちゃん、おはよう。今日も元気ねえ」
飛鳥部アリス社長が呆れたような声で応えてくれる。
「へへっ、あたいはそれだけが取り柄ですからねー」
そして、ソファーを陣取って寝っ転がる。
「私は暑くて元気出ないわ」
アリスがその正面に腰を下ろす。
そして、ぱる子の傍らに立てかけてあるスケボーの板を見る。
「ぱる子ちゃん、今日はスケボーの練習?」
「ううん、板の修理。帰りに御徒町のスポーツ店に寄っていこうと思ってさ」
そして、ぱる子は起き上がってスケボーの板を持ち上げた。そして、タイヤの部分を回して見せた。
「ほら、ウィールがスムーズに回んないでしょ。ベアリングが変になっちゃったかも」
よく聞くと、確かに少し異音がする。
「青木くんに見て貰ったら?」
「青木くんって誰だっけ?」
「そこで機材弄ってる彼よ。知らなかった?」
ぱる子がちらっと青木くんを見る。
ずっと知っている顔だったが、名前を今まで知らなかった。
「ちーっす」
青木くんは、ぱる子とアリスの会話を聞いていたらしく、小さな声で挨拶してきた。
「二人ともアイス食べる?」
アリスが立ち上がって冷蔵庫に向かう。
「もちろん、いただきますー」
「食べるっす」
アリスは冷凍室から3本のスイカバーを取り出す。
「青木くんも、こっち来て食べたら?」
青木くんがアリス社長に言われて、いそいそとぱる子のとなりに座る。
――なんか、暗い奴
ぱる子はソファーに座り直してそっと距離を取る。
青木くんは、嬉しそうにアイスを頬張る。
「最高っすね」
そして、ニコッと笑った。
ぱる子はちょっとドキッとする。
――こいつ、顔は悪くないじゃん。
「9月になっても暑いからね、これを冷蔵庫に買い溜めしてるのよ」
アリスは微笑みながら二人を眺めて言った。
そして、一口アイスを齧る。
「おいしい」
ぱる子は、アリスが羨ましくなった。
――なんであんなに優雅な食べ方出来るんだろう。
そして、下を向いてアイスにかじり付く。
「いい食べっぷりっす」
青木くんが笑顔のまま、ぱる子に声を掛ける。
「俺、ぱる子さんの、そういう気取らなさ、好きっすね」
「ば、ばか。あんまり見るなよ」
ぱる子が自分の口元を手で隠す。
「ごめんねー。こいつ、デリカシーの欠片もないから」
「社長、酷いっす」
ぱる子は二人の会話に思わず笑った。
「漫才みたい」
そして、青木くんの方に向き直った。
「青木……さん。名前を覚えてなくて、ごめんね」
「大丈夫っす」
青木くんが照れたような声を出す。
「青木くん、存在感薄いからねー。ぱる子、この事務所に入って半年でしょ。ずーっと青木くんのお世話になってたはずよ」
――そうなんだ。
ぱる子は申し訳ない気持ちになった。
「板」
「え?」
「スケボーの板、見せて貰っていいっすか?」
ぱる子がうなづくと、青木くんが板を手に取った。ウィールを回したり、板を横から見たり、何やらあちこちチェックしている。
「ここと、ここが緩んでるっす」
「分かるの?」
ぱる子が驚いて声を出す。
「ベアリングにもゴミが絡まってるっす」
そして、工具箱から道具を取り出して、板をいじり始めた。
「あんまり触んなよ」
ぱる子は心配になってきた。
しばらくして、青木くんがぱる子に板を渡した。
「試して見て欲しいっす」
ウィールを回してみる。
シャーっと気持ちの良い音と共に回転する。
「潤滑油も切れそうだったから、数滴補充したっすよ」
ぱる子は少し疑いながら、試しに板に乗って見る。
――あれ?バランスが良くなってる?
「どうっすか?左右前後のバランスも調整してみたっす」
「いい。凄く良くなってる!」
「青木くん、スポーツ店でもバイトしてたからね。意外と、こういうのも調整出来るのよ」
ぱる子は嬉しくなって、青木くんに抱き付こうとした。
その瞬間、青木くんは後ずさって、それを避けた。ぱる子のハグが空振りに終わった。
「女の子からのハグを避ける奴なんて、初めてみたわ」
アリスが呆れたような声を出す。
そして、ぱる子とアリスは大笑いした。




