第16話 中目黒桜子 - ゲーム開始
参加者6人がフィールドに入っていく。
フィールドは市街戦を想定したレイアウトになっており、二階や屋上などの高低差もある。
中目黒桜子は品川りもあを引き連れて、廃墟のような建物の影に陣取った。
銃を構えてしゃがんだ姿勢を取り、戦闘開始の合図を待つ。
りもあは、その後で桜子の姿勢を真似ている。
「ゲームスタート!」
爺やの声がフィールドに響く。
桜子が無言で飛び出して行く。
りもあは動けない。隠れたまま、そっと周りを見渡す。
上の方で赤い派手なドレスが見え隠れしているのが見えた。
「桜子さん、右の建物。二階!」
りもあが叫ぶ。
桜子が機敏な動きで遮蔽物の影に滑り込む。
それと同時に、赤いドレスに向かって、二発の銃弾を打ち込む。
パシュン、バシュン
「くっ、ヒットですわ」
バーバラ薔薇の悔しそうな声が聞こえた。
実況用のパネルから、バーバラ薔薇の名前が消える。
「りもあさん、グッドジョブですわ」
桜子がりもあに向けて、親指を立てる。
そして、フィールドの奥へと突進して行った。その後ろを、りもあが慎重に追い掛ける。
ドラム缶の影に鮮やかな着物姿。
こちらに気づいて撃って来た。
パシュン、パシュン
見当違いの方向に弾が飛んでいく。
桜子は弾を避けながら、素早くドラム缶に近づく。
りもあが立ち上がって逃げようとした瞬間、着物姿がドラム缶の影から飛び出した。
パシュン
至近距離から狙っていた、桜子の一発。
綾小路姫美の名前が消える。
「カトリーヌ華は、どこ?」
桜子は一度立ち止まり、気配を探った。
さっさっさっ
左の奥から、微かに人の歩く音が聞こえた。
あっちだ。
「りもあさん、行くわよ」
桜子は、背後のりもあに囁きかける。
そして、姿勢を低くして、音の方にそーっと近づいて行った。
「あんたのやってることは、いじめだよ」
「あら、負け犬の遠吠えかしら」
二人の声が聞こえてきた。カトリーヌ華と如月まちゃだ。ゲームそっちのけで言い争っている。
「何が淑女のお茶会だよ。二度と行かないからな」
如月まちゃの憤った声。
桜子は、前のお茶会の事を思い出す。
カトリーヌ華が執拗に如月まちゃに絡んで、馬鹿にしていた。確かに、あれは酷かった。
「おほほほ、来ていただかなくて、結構よ」
カトリーヌ華の高笑い。
「まちゃ、カトリーヌ華を撃って」
桜子が叫ぶ。
慌ててまちゃが銃を構える。遅い。
パシュン
カトリーヌ華が反応して如月まちゃを撃った。
パシッ
弾は品川りもあに命中する。
りもあは、思わず、まちゃの前に飛び出していた。気がつくと体が動いていた。
「痛っ。やられちゃった。ヒット!」
「りもあさん、なんで」
如月まちゃがりもあに駆け寄る。
「馬鹿な子ね。まちゃの身代わり?そいつにそんな価値あるかしら」
カトリーヌ華の冷たい声。
「てめー、ふざけたこと言ってんじゃねーよ」
桜子の怒りが炸裂する。
パシュン
パシュン
パシュン
「まちゃ!」
桜子の声に応えるように、如月まちゃも銃を構えた。
パシュン
パシュン
パシュン
「痛っ、痛っ、ちょっとやめてー」
カトリーヌ華がたまらず座り込む。
気がつくと、バーバラ薔薇と綾小路姫美もそこにいた。
そして、淑女のお茶会の全員でカトリーヌ華に弾を撃ち込み続けた。
「皆さん、それはルール違反ですよー」
品川りもあの慌てた声が響いた。
「はぁー」
「ふー」
飛鳥部アリスと青木くんは同時にため息をついた。
「これ、失敗っすね」
青木くんがぼそっとつぶやく。
「そうね。何が何だかさっぱり分からないわ」
二人はオフィスでサバゲーのライブ配信を見ていた。
しかし、画面の切り替えが早く、また、音声が聞き取りづらい。そのため、配信を見ていても何が起きているか全く理解出来なかった。
「やっぱり素人は駄目っす」
青木くんが悔しそうな表情を見せる。
自分が外されたのを、少し根に持っているようだ。
最初に大勢詰め掛けていた視聴者も、ゲームが始まると徐々に抜けて行った。
コメント欄もネガティブな内容で埋まっていた。
〈何やってるのかわからないよ〉
〈迫力無くてつまらん〉
〈音が聞きづらい〉
〈これってvTuberがやること?〉
「でも……」
アリスが気を取り直して言った
「最後、ちょっとヤバそうな雰囲気だったから、音声が無くて良かったわ」
青木くんが同意する。
「カトリーヌ華とバーバラ薔薇は大手事務所っすからね。クレーム入れられるときついっす」
「中目黒桜子には、別の企画を考えてあげなきゃね」
そして、密かに準備していた企画書を手に取る。
『中目黒桜子(歌枠)、歌ってみたコーナー』
「これは期待できるわよ」
飛鳥部アリスは満面の笑みを浮かべた。




