第15話 中目黒桜子 - 開催当日
今日がサバゲーライブ配信の開催日だ。
開催場所は桜子邸宅の裏庭に特設された会場だ。
品川りもあは、早めに自転車で会場に到着した。
新品の迷彩服を着込み、タクティカルブーツも履いている。いかにも初心者という出で立ちだ。
入り口には、「第1回 淑女のサバゲー大会」の横断幕が掲げられていた。
りもあは入り口をくぐり抜け、サバゲー会場で待ち受ける桜子の姿を確認した。
桜子はすぐに見つかった。
淡いピンクを基調とした上品なコーディネートで全身をまとめている。
肩の出たショートドレスにガーターベルト。足首にはリボンの付いた可愛らしいハイヒール。ドレスのスカートには軽く切れ込みが入り、どこかセクシーな雰囲気も漂わせていた。
りもあは、早速、近づいて挨拶する。
「中目黒桜子さん、初めまして。わたし、新人の品川りもあって言います」
そして、桜子に向かって深々と頭を下げた。
桜子は、りもあの姿を一瞥した。
「ごきげんよう。わたくしが中目黒桜子です。素敵な迷彩服ですこと」
そして、右手を差し出して言った。
「りもあさん、よろしくね。絶対に勝ちますわよ」
――良かった。とても優しそうな人だわ。
りもあは、おずおずと右手を握り返した。
会場には、続々と高級車が乗り付けて来る。
「あの方達、いったい何人連れて来るのかしら。執事とメイドの人数制限をしておけば良かったわ」
不満げな桜子に、執事がにこやかに答える。
「お嬢様、ご心配なく。人数制限は5人で通知しておりますので、オーバー分は帰っていただきます」
そして、屋敷のセキュリティ担当に合図を送った。
しばらく入り口ですったもんだしてから、ようやく参加者全員が開催会場に揃った。
「ごきげんよう」
「ごきげんよう」
事務所9時5時のカトリーヌ華とバーバラ薔薇は、派手なロングのドレス姿、そして、個人勢の綾小路姫美は着物を着込んでいる。同じく個人勢の如月まちゃは、ハイブランドもののパンツとシャツで決めていた。
「皆さん、お揃いね」
そして、りもあを紹介する。
「うちの事務所の品川りもあちゃんよ」
「よろしくお願いします」
りもあが頭を下げる。
「ふふっ」
カトリーヌ華が口を押さえて笑う。
「その格好、何ですの。場違いじゃないかしら」
バーバラ薔薇が続けて言う。
「わたくしたちは淑女の集まりですのよ。少しみっともないんじゃないかしら」
品川りもあは恥ずかしくなって後に下がる。
――来るんじゃなかった。
そう後悔して会場を去ろうとした瞬間、桜子がりもあの前に立ちはだかった。
「今、なんて言った?」
桜子の低い声。
「何つったって聞いてんだよ。9時5時のお二人さんよー!」
怒号が響いた。
「りもあの格好はサバゲーに一番相応しいんだ。勘違いしてんのはてめーらだからな」
腰に両手をあてて、右足のハイヒールで思いっきり地面を踏み込む。
ガリッ
ハイヒールの踵が耐えられずに折れた。
「ご、ごめんあそばせ」
「冗談ですわよ」
「ほほほほっ」
カトリーヌ華とバーバラ薔薇の誤魔化すような笑い声。
――桜子さん、格好いい。りもあ頑張る!
品川りもあはキラキラした目で桜子を見つめた。
「狂犬桜子……」
如月まちゃが擦れた声で囁いた。
「爺や、ハイヒール駄目みたいだわ。ローヒールのパンプスを持ってきて頂戴」
桜子が何事も無かったように、振り返って言った。
せいんとのオフィスでは、飛鳥部アリスと青木くんが、ライブ配信が始まるのを、今か今かと待ちわびていた。
「あ、始まったっす」
青木くんが嬉しそうに言う。
オープニングの映像にロゴが映し出され、それが消えるとサバゲー会場の映像になった。
「あら、みんな実写ね」
アリスが参加者の姿を見て驚いた。
「頭に何か被ってるわよ」
「あれ、液晶のマスクっすね」
青木くんが答える。
参加者がかぶっているマスクは液晶パネルで覆われており、そこにVTuberのアバターの頭部が映し出されている。
頭以外はそのまま素の姿で、かなり違和感があった。
また、よく見ると参加者は透明なポンチョのようなものも着ている。
「あのポンチョ、静電気式のタッチセンサーになってるっすね」
「着弾するとセンサーが働いて、弾が当たったのが分かるっす」
青木くんがしたり顔で頷く。
「あれなら、撮影カメラもドローンとクレーンの二種類あれば十分っす」
「考えたっすね。これだったら顔バレもMRの同期も気にしなくて良いっす」
「それって、VTuber配信って言えるのかしら」
アリスが不思議そうに言う。
「では、わたくしから本大会の仕組みやルールをご説明いたします」
姿勢の良い初老の執事が話し始める。
「ゲームは、このフィールドで行われます」
爺やが、背後の、柵で囲われて遮蔽物が散りばめられた領域を手で示す。
「ルールはワンメイクのデスマッチ戦で、皆さん同じ銃を使って戦います」
銃は既に全員にGlock 17が配布済みだ。
「撃たれたらヒットと宣言し、退場して下さい。次のゲームまで復活はなしです」
「残っているのが1人だけになったら、そのチームの勝利でゲーム終了となります」
そしてゲームが始まった。




