第14話 中目黒桜子 - サバゲー大会
VTuber事務所せいんとのオフィス。
今日はライブ配信もなく、比較的落ち着いた日だ。
「うわあっ」
青木くんが叫び声を上げる。
「社長、桜子さんから変なメールが来てるっす」
「うるさいわね。青木くんこそ変な声を上げないでよ」
飛鳥部アリスは怪訝な顔でパソコンのメールを開く。
「えぇ、何これ?」
アリスの叫び声。
「第1回 淑女のサバゲー大会開催のお知らせ、ですって?」
「うちの事務所が主催ってことになってるっす」
アリスはメールの内容を目で追っていった。
「場所は、中目黒桜子の邸宅、費用は彼女持ちね。配信機材も手配済み。参加事務所にも連絡、了承済み?」
「社長、了承したんすか」
アリスが記憶を探る。
そういえば、恵比寿の焼き肉屋で酔っ払っていた時に、桜子から電話を貰ったのを思い出した。
全部の費用が桜子持ちなら、という条件で了承した気がする。
一旦、咳払い。
「了承……したわね」
「えー、まじっすか」
青木くんが露骨に嫌な顔をする。
「桜子さんと絡むの、苦手なんすよね」
そして、ため息。
アリスは、気の毒に思いながらも、青木くんに指示を出す。
「桜子が手配した業者と、連携を取って準備してちょうだい」
「へーい」
青木くんは返事の後、首を傾げる。
「サバゲーのような動きのある競技って、人間でも配信するの難しいんっすよね」
「なので、MR配信前提で考えてると思うんす」
通常のVTuberの配信ではCGだけで3Dを表現しているが、MRだと実写にCGを被せる方式になる。
「トラッキングセンサーかスーツ使うんすかね。でも、リアルタイムで処理となると、実写にアバター重ねてもズレたり破綻するのが怖いっす。だとすると……」
青木くんは、ぶつぶつと技術的な話を続ける。
「とにかく、宜しくね」
アリスはバッグを手にして席を立つ。
そして、技術者モードの青木くんから逃げ出した。
数日後。
イベント告知のページに、第1回 淑女のサバゲー大会開催の宣伝が掲載された。
参加者は以下の通りだ。
チームせいんと
中目黒桜子
品川りもあ
チーム9時5時
カトリーヌ華
バーバラ薔薇
チーム個人勢
綾小路姫美
如月まちゃ
「なんか、いつの間にか、りもあさんが巻き込まれてるっすね」
「ほんとだわ。まあ、宣伝になるから、いいけど」
アリスは、桜子の行動力に舌を巻いた。
「ところで、技術的な問題は大丈夫なの?」
「いいアイデアがあるんで、俺は必要ないって言われたっす」
「勉強させて貰うっす」
青木くんが悲しそうな声で言った。
中目黒桜子は燃えていた。
「絶対に負けられないわ」
そして、自慢のクローゼットの扉を開ける。
そこには、ところ狭しと、山のようなエアガンが収納されていた。
「今回は、公平にGlock 17のワンメイク戦がいいわね」
一丁の自動拳銃を選んで手に取る。
ボタンをスライドさせてマガジンを引き抜く。
BB弾が入っていないことを確認し、マガジンを戻す。
両足を開いて腰を低くして両手で構える。
カトリーヌ華が逃げる姿を想像して、トリガーに指をかける。
何発か想像のカトリーヌの背中に撃ちこむ。
「ふふふ」
思わず含み笑いが漏れる。
「わたくしの華麗な銃さばき、見せて差し上げるわ」
「あっはっはっは」
桜子の高笑いが響いた。
「ごほんっ」
振り返ると、いつの間にか執事が背後に立っていた。
「お嬢様、バイオリンのレッスンの時間でございます」
少し気まずい。
「あ、ありがとう。すぐに行きますわ」
去ろうとする執事に声を掛ける。
「爺や、Glock 17を5丁発注しておいて頂戴」
「お嬢様、既に手配済みでございます」
今回のイベントは、執事の爺やがすべて仕切って手配している。
――さすがは爺やだわ。
桜子は銃をクローゼットに戻して、隣のクローゼットからバイオリンを取り出した。
その頃、品川りもあは部屋でサバゲー関係の本や雑誌を読み漁っていた。
桜子の執事から連絡を貰ってから毎日が勉強だ。
――桜子さんの足手まといにならないように、頑張ろう。
ベッドの上には、新品の迷彩服が広げてある。
タクティカルブーツも買い揃えた。
――でも、桜子さんって、どんな人なんだろう。
――お金持ちのお嬢様らしいから、失礼にならないようにしないと。
品川りもあは体中不安で一杯になった。
そして、不安を振り切るために、声を出して言った。
「きっとパパも応援してくれる。見ててね」
そして、再び、本と雑誌に戻った。




