第13話 中目黒桜子 - 迷走
――今日もまずまずの盛り上がりだったわ。
ライブ配信を終えた中目黒桜子は、ほっとひと息ついていた。
ドアのノックの音。
年配の執事が部屋のドアを開けて入ってくる。
「お嬢さま、何かお飲み物をお持ちしましょうか」
「爺や、ありがとう。それじゃ、紅茶を貰おうかしら」
「茶葉は何にいたしましょうか」
執事がうやうやしく尋ねる。
桜子は少し迷ってから言った。
「アッサムのロイヤルミルクティーがいいわ」
「少し濃いめでお願いね」
「かしこまりました」
執事が部屋を去った後、桜子はパソコンに向き直る。
「そういえば、新しい子が入ったのよね」
事務所せいんとのホームページを開いてみる。
品川りもあのプロフィールをチェックする。
「大したことない子ね」
ふっと軽く笑って、りもあの動画を検索する。
「はぁ?何よ、これ!」
検索結果には、ずらりと切り抜きの動画が並んでいた。
しかも、どの動画の再生回数も10万を軽く超えている。
桜子は、試しに“化け猫”と書かれた動画を再生してみる。
そして、食い入るように最後まで動画を視聴した。
「面白い。この子、面白いわ」
桜子は唇を噛み締めた。
「お嬢さま、失礼します。紅茶をお持ちしました」
爺やが部屋のテーブルに紅茶のカップをセッティングする。そして、ポットを高い位置に構えてミルクティーを注ぎ入れる。
その手際と姿勢には惚れ惚れする。
桜子は爺やが準備を終えるのを待った。
「爺や、ちょっと、この動画を見てくださる?」
爺やが目を細めてりもあの動画を見る。
「可愛いお嬢さんですな」
そして、しばらくして、ぷっと軽く吹き出した。
「失礼しました。つい笑ってしまいますな」
――爺やが見ても面白いんだわ
桜子は、軽い衝撃を受けた。
「ありがとう。下がっていいわ」
そして、考え込む。
――このままでは、わたくしの地位が危ういわ。何か、新しい企画が必要ね。
そして、紅茶のカップを手に取り、まだ熱いミルクティーを啜った。
中目黒桜子は、レオタード姿でお屋敷の中バレエスタジオの真ん中に立っていた。そして、鏡に映る抜群のスタイルを眺める。
――悪くないわよね
そして、おもむろに化け猫のポーズをとってみる。
「に、にやー。ん?にゃあ?」
「何だか違うわね」
しゃがんで四つん這いになってみる。
「にゃーお」
高らかに鳴き声を上げてみる。
「桜子さん、何をしてらっしゃるの?」
気がつくと、いつの間にかクラシックバレエの先生が来ていた。
――見られていた?
「せ、先生。いつ、いらっしゃったんですか?」
桜子が焦りながら聞いた。
「に、にやー、辺りかしら」
先生が真面目に答える。
「面白かったですか?」
「いや、全然」
――化け猫化の企画はボツだわ。上手く出来た所で、二番煎じはまぬがれないし……
桜子はバレエのレッスンに集中した。
淑女のお茶会。
それは、お嬢様系VTuberのオフ会の呼び名である。
幹事は持ち回り制で、定期的に毎月開催されている。
今回は、中目黒桜子が幹事の番だ。そのため、とっておきのホテルのラウンジを準備した。もちろん、実際に予約したのは執事である。
「みなさま、ごきげんよう」
「ごきげんよう」
「ごきげんよう」
参加者のお嬢様達が優雅に挨拶を交わす。今回の参加者は4名。
「桜子さん、今日の話題は何かしらね」
大手事務所のカトリーヌ華が口を開く。彼女は、大物声優との不倫が噂され、現在、活動自粛中だ。
「前回の、如月まちゃの話はつまらなかったから、今回は期待しているのよ」
ちなみに、如月まちゃは個人勢のVTuberで、前回が初参加だったが、今日は欠席している。もう二度と来ないだろう。
桜子は、軽く咳払いをした。
「実は、皆さんと新しい企画をやりたいと思っておりまして」
そこまで言って周りの反応をみる。
「良いんじゃない?」
「楽しそうね」
カトリーヌ華と同じ大手事務所に所属しているバーバラ薔薇と、個人勢の綾小路姫美が興味を示した。
桜子は気を良くして、ラウンジのスタッフに合図をする。
スルスルとスクリーンが下りてきて、プロジェクターから企画の概要が映し出された。
「サバゲー大会?」
桜子以外の3人が同時に声を上げる。
「何ですの、サバゲーって」
カトリーヌ華が桜子に尋ねる。
「陣取りゲームみたいなものかしらね。まずは、これを見て貰えるかしら」
桜子は再びスタッフに合図を送る。プロジェクターからサバゲーの動画が再生される。
動画では、仰々しい格好をした男たちが、銃を片手に走り回っていた。時々、ヒットと叫んで人が倒れる。そして、歓声が上がる。
「戦争ごっこ?」
「これを私たちがやるの?」
バーバラ薔薇と、綾小路姫美が嫌な顔をする。
「いいじゃない。面白そうね」
カトリーヌ華の強気な声。
「どうせ、私が勝つでしょうけど」
そして、おホホホと高笑いした。
これが、決定の合図となった。
「日程は、みなさんの執事と調整させてもらうわね」
「場所は我が家のお庭でいいわね。爺やに準備させるから、手ぶらで大丈夫よ」
そして、淑女のサバゲー大会のライブ配信が決まった。




