第11話 巣鴨十月 - 恋愛相談コーナー
ライブ配信が始まった。
「みんな、いい恋してるかな。『ぱる子恋愛相談コーナー』の時間だよ」
テーマ曲の後に、ぱる子の明るくて元気な掛け声が再生される。
このコーナーは若者たちに圧倒的な人気があった。
画面には、にこやかな表情の巣鴨 十月のアバターが映し出されている。
「今日は、ぱる子がお休みなので、十月お姉さんが担当です」
「みんなよろしくな」
〈十月お姉さん美人〉
〈ちょっと格好が怖い〉
〈ショートヘアかっこいい〉
〈男みたい〉
〈トゲ様頑張ってーっ!〉
『青木くん、表情の制御お願いね』
アリスがスタジオの青木くんにチャットを送る。
中高生相手に、十月の不機嫌な表情は出せない。
そのため、フェイストラッキングデバイスは青木くんが装着している。青木くんから読み取ったデータを十月のアバターと同期する手はずだ。
『任せてくれっすよ』
青木くんの自信に満ちたチャットが返ってきた。
「さて、最初のマシュマロは、みなちゃん(14歳)からです」
十月が質問を読み上げる。
『私にちょっかい出してくる男子がいるんですが苦手です。でも、その子は私のことが好きなんだと思います。どうすればいいですか』
十月はニコニコと微笑み続ける。青木くんの表情だ。
「そうですね……」
少し考える。
「俺だったら、ぶっとば……いや、本心を聞いてみます」
「みなちゃんに、その気が無ければ、ぶん殴……いや、丁寧にお話ししてお断りしましょう」
実は、青木くんが模範解答を十月のDiscordに送っていた。十月は、そのメッセージを見て回答している。
『ヒヤヒヤするわね』
『危ないっす』
アリスと青木くんのチャットでのやり取り。
『これ、なんでトゲさんにやらせたんすか?』
青木くんがアリスに聞く。
『だって、りもあは化け猫化しちゃうし、中目黒桜子は……あれでしょう?』
中目黒桜子は、この事務所のお嬢様系VTuberだ。
『そうっすね』
青木くんの納得したような返答。
『でも、今思えば、青木くんの方がよかったわね』
『嫌っすよ』
「次は、みさとちゃん(15歳)ですね」
十月がぎこちなく質問を読み上げる。
顔には青木くんの笑顔が貼りついている。
『私には同級生の彼氏がいますが、エッチなことばかり言うので嫌になっています。どうすれば止めさせられますか?』
十月は即座に答える。
「そんなの、からだめあて……えへんっ。男の子はそういう生き物です。本能ですので、許してあげて下さい。って、あおきー!」
十月のアバターの視線が正面を向く。笑顔のままだが、恐らく睨んでいる。
『次、次っ』
青木くんが十月のDiscordに指示を送る。
「次のマシュマロは、なおちゃん(16歳)からです」
十月が次の質問を読み上げる。
『私はモテるので、3人同時に告白されました。お付き合いする相手は、どうやって選べば良いですか』
十月は少し考えて、ゆっくり話し始めた。
「おれ……私も、同じようなことがあって、尊敬する人に相談したんだよ」
青木くんが慌てている。
『社長、トゲさんが俺の回答読んでくれないっす』
『なんて書いたの』
『金と地位っす』
『あほっ』
十月の話は続いている。
「その人に言われたんだ。相手を知らないと選べないし、選んで貰えないって」
十月の本当の表情は、青木くんの笑顔に隠されて分からない。
アリスが首を傾げる。
『私、そんなこと言ったかしら』
『言ってないっす』
十月がふふっと笑う。
「それでね、試しに、全然好きじゃない人とデートしてみたんだ。楽しかった。そして、その人の事が前より好きになったよ」
『俺、やばいっす、泣きそうっすよ』
青木くんは必死で笑顔を続ける。
画面上の十月の表情が泣き笑いになっている。
アリスは食い入るように画面を見つめていた。
「俺に声をかけてくれた男の人たち、ごめんな。お前らは本当の俺を知らないし、俺もお前らのことを知らない。だから……悪いけど、お断りするよ」
「なおちゃん、いい人をちゃんと見つけろよ」
「じゃ、俺の配信は、これで終わりだ。またな」
そして、画面が暗くなった。
青木くんの涙腺が崩壊した。
都内マンションの一室。
「トゲ様がデート?誰と?」
「許せないわ」
品川りもあは、その夜、一睡も出来なかった




