第10話 巣鴨十月 - 初デート
数日後、飛鳥部アリスは、事務所せいんとのオフィスで巣鴨 十月を待っていた。
『ぱる子恋愛相談コーナー』の打ち合わせが目的だ。
青木くんが隣でYouTubeチャンネルをチェックしている。
遊んでいるようにしか見えない。
「例のコラボの切り抜きが、また増えてるっす」
アリスが青木くんのパソコンの画面をのぞき込む。可愛い衣装を着た十月が凄みを利かせている。
「トゲさんカワイイっすね」
青木くんの目尻が下がる。
「りもあちゃんも色っぽいっす」
アリスはちょっと考える。
「今回のコラボの特集記事ってどうかしら」
事務所のホームページには、大きなイベントや企画の記事を載せている。今回のコラボの記事は人気が出そうだ。
「いいんじゃないすかね」
「男性ファンには喜ばれそうっす」
一番喜んでる青木くんが言う。
聞き慣れたバイクの排気音が聞こえた。
「来たわね。十月は嫌がるから、記事のことは黙っててね」
巣鴨十月の様子が変だった。
「おはようございます」
元気なく挨拶すると、ため息をついてソファーに腰を下ろす。
「十月ちゃん、元気ないわね」
アリスは十月にブラックの缶コーヒーを差し出しながら言った。
そして、十月の前に腰を下ろす。
「今日の打ち合わせ、オンラインでも良かったのに」
そして、自分は砂糖がたっぷりと入ったミルクコーヒーを啜る。
「アリス社長、俺、ちょっと困ってて」
「相談に乗って貰えませんか?」
そして、青木くんを睨みつける。
「てめーは、あっち行っててくれ」
「ひえっ、なんで?」
青木くんが驚いてスタジオに避難する。
「どうしたの?珍しいじゃない」
十月がすがるような目でアリスを見る。
「実は、お、男について、教えて欲しくて」
恥ずかしそうな声と表情。
――男?彼氏と揉めたのかしら。
アリスは無言で次の言葉を促す。
「俺、男と付き合ったことなくて、突然モテ始めちゃって、どうやって断ったらいいのか分からなくて……」
そして、十月は缶コーヒーをがぶ飲みして顔を伏せた。
「ええと、十月ちゃんは彼氏はいるの?」
「いないです」
「好きな人は?」
「いないです」
――じゃあ、なんで断るのよ!
アリスは立ち上がった。
「全員とデートしなさい。そこから、いい男を見極めるのよ」
「ええ!?でも、50人以上いるんです。全員とデートなんて無理ですよ」
予想外のアドバイスに十月が仰け反る。
――50人?そんな、羨ましい。
アリスは再び考える。
「そうだ。青木くんと付き合いなさい。彼氏がいれば諦めるわよ」
「なるほど!」
十月がおっという顔をして頷いた。
「それ、いいです。そうします」
顔が少し明るくなる。
「偽装彼氏作戦ですね」
早速、青木くんを呼びつける。
「あおきー、俺と付き合え。デートするぞ」
怯えた青木くんが、ちょっとだけ嬉しそうな顔をして頷いた。
企画の打ち合わせも早々に、二人はデートに出掛けて行った。
――あれ?モテてるのって、きっとアバターの方よね。
――偽装彼氏作戦もバーチャルでやらないと、意味ないわね。
そして、アリスは青木くんに連絡しようとして、その手を止めた。
「まあ、いっか」
「でも、りもあには内緒にしなきゃ」
そして、思わず顔がほころぶ。
「二人とも楽しんでいらっしゃいな」
その頃、二人は無言で横に並んで、秋葉原の街を早足で歩いていた。
末広町を抜けて、もうすぐ御徒町駅に着く。
「ええと……」
青木くんが、息を弾ませながら、そおっと十月の横顔を覗き込む。
「こういうのって、デートとは言わないんじゃ……」
「そうか?俺は散歩が趣味だからな。歩いているだけで楽しいぞ」
青木くんは息が切れて立ち止まった。
膝に手を置いて呼吸を整える。
「ちょっと、その辺でお茶したいっす」
「情けない奴だなあ」
十月も立ち止まり、まわりを見渡した。
「あそこにしよう」
指の先にはアイリッシュパブがあった。
「飲み屋じゃないっすか。あっちの方がデートっぽいっす」
青木くんは、洒落た紅茶専門店を指さした。
「でも、もし嫌なら、トゲさんに合わせるっすよ」
「いいよ。紅茶にしようぜ」
そして、二人で紅茶専門店に入る。
店内はカップルか女性同士で、男性客は少ない。
座ってオーダーを済ませ、ようやく落ち着く。
「お前、よくこういう店知ってるな」
十月が感心する。
「前の彼女と良く来たっす」
青木くんがさらっと答える。
ガタッ
十月が驚いて椅子から体を乗り出す。
「お、お前、彼女いたのか!!」
店内に声が響く。
「あ、ごめんなさい」
十月が我に返って座り直す。
「お前、彼女いたのか?」
改めて聞き直す。
「元っす。同棲してたっすけど、三ヶ月前に別れたっすよ」
十月は驚きを隠せない。
何故なら……
「俺、実は、男と付き合ったことなくて」
今度は青木くんがびっくりする。
「え?じゃ、女っすか?」
「そうじゃなくて」
恥ずかしそうに続ける。
「男が寄り付かなくて……なんでだろうな」
――怖いからっす。
青木くんが言葉を飲み込む。
「ダージリンとアールグレイお待ちどうさま」
店員の声。
気がつくと、店内の客達が二人の会話を固唾を飲んで見守っていた。




