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死闘の前奏曲

「言ったろう? 人を舐めるなってさ!」


 啖呵を切り、背中の『粉砕する者』を引き抜く。ここならどこに撃ったって敵に命中する。柄を握りしめ、銃弾を大量にばら撒く。一キロ先のコンクリート壁をブチ抜く超大型銃弾が虫の群れに襲い掛かり、食いちぎる。

 五、六匹の虫をまとめ粗挽き肉に変える鉄の暴力と、地面すら見えないほどの数の暴力が正面から激突。蟲どもの大海嘯が仲間……いや、自(・)分(・)自(・)身(・)の死体を踏み越えて僕に向けて襲い掛かる。


「おっ……あああああああああああああああああああああああああああああああああっっ!!」


 津波に向け、刃を一閃!

 剣風が巻き上がり、血風が飛び散る。

 決して手を緩めず刃を振るう。今この瞬間に、荒れ狂うだけのただの力となる。


「ふふふ……やるなぁ、人間よ」


 そんな僕の戦いを睥睨しながら、べィが嘲笑う。


「だが、どれほど貴様が強力でも、それは個として荒れ狂う力にすぎない。この世で一番恐ろしいのは自分一人では止(・)ま(・)る(・)事(・)す(・)ら(・)で(・)き(・)な(・)い(・)弱者の群れであると知れ」


「はっ、バーカ! ほざいてろ!」


 体にまとわりつく虫を引きはがし、笑ってやる。腰ほどまで虫の群れに飲まれている、感触と粘液が気持ち悪いったらありゃしない。


「教えてやるよ! この世で最も恐ろしいのは意思のない群れかもしれないけど、この世で最も強いのは、いつだって意思を持って戦うやつだ!」


 ピッタリ図ったかのように、同時に相棒が行動を開始。


 僕の声とほぼ同時に、悪魔を押しとどめる様に、天上から光が差した。

 光が回りを昼間の様に明るく照らす。光と共に、僕と悪魔の元に声が届く。


 それは、歌。あらかじめイリスに頼んで準備してもらっていた反撃の合図だ。


 歌が響く、地下に反響し響き渡る。不思議なことにどれほど反響しても、はっきりと聞き取ることができ、少しも不快に感じない。


 響く歌声に、悪魔もまた、苦々しそうに唇をゆがめる。


「そうかそうか、居たなぁ……余の半身を消し飛ばした天使が」


 歌声による変化はすぐに表れた。

 光と歌声に捉えられた悪魔達が体を光にほどかれ、元這い出して地の底に消えていく。反響する歌声と、そのたびに強くなる光によって、あれほど増殖していた虫の群れが見る間に消滅し、血の跡一滴すら残っていないコンクリートの地面が覗く。


 虫の襲撃も一段落ついたので『粉砕する者』を地面に刺した。ちょっとストレスに突き動かされて暴れすぎた。少し息を整えないと、本番前にへたってたら笑えない。


「そう? 馬鹿話に油断してて全く気が付かなかったって言うんなら、気を逸らす為にお話に付き合った甲斐もあったね。この施設を出てすぐそこの場所で彼女はずっと準備してたんだよ」


 少しは悔しそうな顔をしてくれれば僕の溜飲も少しは下がったかもしれないけど、当然目の前の相手にそんな事は無かった。


 そんな会話の中、歌は響き続ける。


 ただ声を上げ、楽しげに、だけど必死に歌う声が僕達の耳に響く。

 見える訳じゃないけれど、相棒は全力で歌ってるんだろうなぁ……と想像させられる。そんな声だった。


 やがて光の中に、エーテルで形成された暖かな羽毛が舞い踊る、地の底にそぐわない、儚く清らかな輝きの羽毛が僕の体をくすぐり、疲れを癒す。

 明るい、そしてとても暖かい。まだ数えるほどしか見ていないが、見れば見る程不思議だなぁ、コレ。


 何はともあれ、作戦の第一段階は成功だ。


「僕の相棒自慢の天術の一つ、『神聖よ、流れ出で我が国に満ちよ』さ。この瞬間を持って、この地下水道は僕達のだ……悪魔は出入り禁止だから帰れよ、クソったれ」


 イリスの使用したこの天術は、周囲一帯を結界で囲い、彼女にとって都合の良い世界に書き換える術式だ。


 とはいえ、言葉ほど大それた術式と言う訳では無い。この結界の中に居る限り、彼女が行う魔法行使や天術の能力が上がり、敵対する敵の魔法行使や挙動に負荷がかかると言うそれだけの術式だ。


 しかし、悪魔を相手とする今回はそれだけでは済まない。周囲に満ちた光は敵対する『悪』を許さず、眼前の悪魔が自らの魔法陣に向けて垂れ流す魔力を軒並み撃ち祓い、外に力が流出するのを防ぐ。


 外周や魔法陣がどれだけ大きく完璧だろうが、中心であるここを押さえられたら作動しない。ここに結界がある限り、しばらくは時間を稼ぐことができる。


 現に、周辺の魔法陣は鈍く光りこそしている物の、次が出てくる兆しは無い。

今僕の周囲に居るのは元凶のベィと、結界を力で押し破る事の出来た数体の巨大な虫だけだ。


「くっははははははは! 面白い! 面白いなぁ! お前、周りと出口を塞いだか? 成程、確か此処、陣の中心から流れる余の力と号令を聖域で遮断されれば、召喚陣も本来の十分の一も開かんな」


 王者たるベィが回りの臣下を睥睨する。悪魔たちが答えるかのように蠢き、満足げにベィが微笑む。


「しかしそれだけでは足りん、この程度の聖域では残念ながら余を追い出せぬぞ? この程度の時間稼ぎで終わりか? ん?」


 その期待を込めた笑みで悪魔が見つめてくる。

 返答は、一筋の光。

 悪魔への直撃コースを辿った光は、周りを囲む悪魔の一体を吹き飛ばし、ベィの眼前で奴の展開した防御術式に遮られた。

 成程、聖域化して、力を幾分か制限されている筈なのにコレか、どうやら向こうもフードコートの時より力を取り戻しているらしい。


「ありゃりゃ、やっぱり同じ手段は二度通じないか」


 残念そうな声を上げて、一仕事終えたイリスが施設に侵入。光を纏いながら僕の傍らに舞い降りた。

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