--閑話-- 還る場所
もう体は動かない。
あおむけに倒れたまま、空を見上げている。「そろそろか・・・」ルブランという私自身の意識が少しずつ消えているのがわかる。けれどもう止められない。
最初、自分が消えてしまうことに恐れを抱いていたが今はそうでもない。自分はレドリーの手で強制的に生かされてきた。輪廻に反するものが自然に変り消失するのは、ある意味で当然の結果なのだろうとすら思っている。
ただ「自分は何がしたかったのだろう」という疑問が頭をよぎる。命をもてあそんだレドリーを恨み、彼を始末しようとした。だが彼が倒れた時、抱いていた恨みの感情はすべて消えていた。まるで最初からなかったように。
朝日が出ていた。体はもう動かずことはできず意識も消えかかっていたが、朝日だけはっきりと認識できた。
「・・・きれいだな。」正直な感想だ。死者になってから太陽を意識したことはなかった。人の道から外れた自分を恥じて、太陽のことを無意識に避けていたのかもしれない。
わずかに残された意識が消えようとしている。よかった、最後にこんなに美しいものを見えたことに私は感謝してすべてが消えた。
次に意識が戻ったとき、私は家の前にいた。数年前に失われあの家に。
「なぜ・・・?」と困惑したが、すぐに理解できた。私の帰るべき場所はここなのだと。そして私自身、ここに帰ることを望んでいたのだろう。
私はドアノブに触れてそのまま開けた。何年もしていない動作だが体は覚えているあの時のことを。踏み入れた我が家はあの時のままだ。
「おかえりなさい、あなた」「おかえり、お父さん。」あの時と変わらず妻と娘が出迎えてくれた。やっと帰ってこれたのだな・・・・
「ただいま。」




