草原の戦い
彼方はエルメア、音葉と分かれて、夜風が揺らす草原を移動していた。頭を低くして、周囲の状況を確認する。
――虫の声が聞こえなくなった。この先に潜伏してる兵士がいるな。
彼方は魔法のポーチから地図を取り出した。それはシーフのレーネが作ってくれた峡谷周辺の詳細な地図だった。
――エルメアの情報と合わせると、兵士の配置は均等だな。誰が僕を見つけても、すぐに周囲の兵士が集まってきて、数で倒そうってところか。
彼方は親指の爪を唇に寄せる。
――ナグチ将軍は確実に僕を殺そうと考えてる。となると、配置してる兵士たちの質も高いはずだし、他にも策があるのかもしれない。
――ナグチ将軍がいる本隊が、ここに到着するまで残り半日ってところだろうし、早めに勝負をつけたほうがいい。それなら…………。
彼方の周囲に三百枚のカードが浮かび上がる。
◇◇◇
【召喚カード:造られた勇者 メタセラ】
【レア度:★★★★★★★★★★(10) 属性:無 攻撃力:8800 防御力:7500 体力:6600 魔力:0 能力:メタセラを破壊した者にダメージを与える。召喚時間:1時間。再使用時間:30日】
【フレーバーテキスト:メタセラは本物の勇者ではない。だが、彼女はダークドラゴンを倒してカイルの街を守ってくれた。その命を捨てて…………】
◇◇◇
十四歳前後の少女――メタセラが召喚された。肌はロウソクのように白く、ショートボブの髪は青色。右手には黄緑色に発光しているレーザーソードを持っていた。
「彼方様…………ご命令を!」
抑揚のない声がメタセラの口から漏れる。
「この近くに潜伏してるサダル国の兵士たちを倒して欲しい。できるだけ多く」
「了解しました。目標を排除します」
メタセラのブーツについた四つの車輪が回り始めた。
夜風で揺れる草原を移動し、左手を動かした。
五本の指から青い光線が出て、隠れていたサダル国の兵士の体を貫いた。
「ぐああああっ!」
断末魔の叫び声が草原に響き、潜伏していた兵士たちが姿を見せた。
「そいつは氷室彼方の仲間のはずだ! 奴も近くにいる…………があっ!」
「こいつ手強いぞ! 先に殺れっ!」
「おおーっ!」
兵士たちは四方からメタセラに襲い掛かる。
二人がレーザーブレードで斬られている間に、背の低い兵士が毒つきの短剣でメタセラの首を狙う。
黒い刃の先端がメタセラの首に当たる。
キンと甲高い金属音がして、兵士の短剣が弾かれた。
メタセラは表情を変えることなく、レーザーブレードで兵士の首を斬った。
「くそっ! こいつ、毒が効かないぞ!」
「手足の関節を壊せ! 動けなくするんだ」
「拘束の呪文も使え…………があああ」
メタセラは近づいてくる兵士たちを次々と斬り、青い光線で遠く離れた兵士の体に穴を開ける。
圧倒的なメタセラの力に兵士たちの顔が歪む。
「ダメだ! 毒も呪文も効かない。化け物だ!」
「てっ、撤退だ! 一度、下がれ!」
兵士たちは東に向かって走り出す。
彼らを追ってメタセラも草原を疾走する。
兵士たちを倒し続けるメタセラを見て、彼方は僅かにうなずいた。
――メタセラは★十のクリーチャーで、Sランクの冒険者より数ランク上の強さがある。ロボットだから毒も効かないし、倒される可能性は低いだろう。
――この調子で暴れ回ってくれれば、サダル国の兵士たちは組織的な動きができない。音葉も隠れてる兵士を倒してくれてるだろうし。
彼方はきょろきょろと辺りを見回す。
――ニーアが先行する魔道師の部隊を見かけたって言ってたし、転移の魔法陣の準備をしてると考えたほうがいいな。
――転移の魔法陣を使うには貴重な秘薬がいるみたいだし、それを奪うことができれば、兵糧攻めを続けられる。
彼方は姿勢を低くして、移動を開始した。
◇
数十分後、小さな林の手前で彼方は足を止めた。右側には峡谷があり、そこから冷たい風が吹き上がっている。
――この辺りに魔道師たちがいないってことは、もっと南側か。状況によっては、音葉をカードに戻して、別のクリーチャーに偵察させる手もあるな。
その時――。
ヒュンと小さな音がした。
彼方は素早く首を捻る。黒いナイフが彼方の顔の側をすり抜けた。
――こんなところにも兵士がいたのか。
彼方はカードを選択する。
◇◇◇
【アイテムカード:聖水の短剣】
【レア度:★★★★★★★★(8) 水属性の短剣。装備した者の意思を読み、刃の形状を変える。具現化時間:24時間。再使用時間:20日】
◇◇◇
目の前に青い刃の短剣が具現化された。
彼方はその短剣を掴み、走り寄ってきたサダル国の兵士を斬った。
「くああああっ!」
兵士は胸元から血を吹きだしながらも、毒つきの短剣で彼方の腕を刺した。
「いっ…………」
彼方は痛みに顔を歪めながら、北に向かって走り出す。
――この短剣は毒つきか。早めに治しておかないと。
「逃がさんぞ! 氷室彼方!」
痩せた兵士が彼方の前に立ち塞がる。
彼方は遠い間合いから聖水の短剣を真横に振った。青い刃が一メートル以上伸び、兵士の腹部を斬る。
「かあっ…………」
倒れた兵士の体を飛び越え、彼方は緩やかな斜面を駆け下りる。草むらの中に飛び込み、
魔法のポーチから小ビンを取り出す。ビンのフタを外し、中に入っていた回復薬を一気に飲んだ。
青色の上着の袖をめくると、周囲の皮膚が紫色に変化していた。傷も塞がらずに血が流れ続けている。
――通常の回復薬じゃ、治せないのか。特別な毒を使ってるな。
彼方はカードを選択する。
◇◇◇
【呪文カード:リカバリー】
【レア度:★★★(3) 効果:対象の体力、ケガを回復させる。再使用時間:3日】
◇◇◇
鉄琴を叩いたような音がして、彼方の右手が白く輝く。その光が彼方の腕の傷を修復していく。
――リカバリーは効くみたいだな。
呼吸を整えながら視線を動かすと、深緑の髪の少年――パルビス百人長が近づいてくるのが見えた。




