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反逆騎士の叛命録《リベリオン》  作者: 黒ひげの猫
二章

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29話 容疑者アルヴィン

 聖騎士レグナリア学院の長期休暇が終わり、アルヴィンは学院へと戻って来ていた。

 いつもなら人の少ない学院で静かに長期休暇を過ごしているのだが、「たまには顔を見せろ」とローザから手紙が届き、「まぁ、たまにはいいか」と彼女のもとで休暇を過ごしていた。

 ひょんなことから名家ベルフォード家の令嬢と知り合い、彼女が主催するパーティーに参加した。

 そして、まさかそこでエレノアと再会することになるとは思ってもいなかった。

 

「濃い休みだったな」


(休みに行ったんだか、疲れに行ったんだか)

 初めての社交の場に加え、宿泊代の代わりだと言われ、ローザの手伝いを夜遅くまでさせられる羽目になった。


「学院で過ごしとけば良かったな……」


 学院から出たことを後悔しつつも、出なければエレノアの綺麗なドレス姿を見ることはできなかった。

 そう考えると、やはり学院を出て正解だったのだろうと思い直した


「…………綺麗だったな」

 

 真っ青なドレスは、エレノアの透き通るような銀髪をより一層引き立て、丁寧でありながら派手すぎない化粧も相まって、いつも以上に美しく見えた。

 あのパーティーの後からというもの、エレノアのドレス姿が何度も脳裏をよぎり、そのたびに何も手につかなくなってしまう。


「さすがに、そろそろ切り替えないとな」


 朝の支度を終え、自室を出ると、寮の中がいつになく騒がしかった。

 その騒ぎの中心にいるのは貴族生徒たちばかりで、血相を変える者や、どこか怯えたような表情を浮かべる者もいる。


「朝から騒がしいな……」


 貴族の間で何か良くないことが起きたのは明らかだったが、その輪に加わることもできず、アルヴィンは寮を後にした。

(エレノアが何か知っているかもしれないから、後でそれとなく聞いてみるか)

 なんて呑気に考えながら歩いていると、不意に背後から手を引かれた。


「うわっ!?」


 その勢いのまま駆け出したアルヴィンは、前を走る人物を見て目を丸くする。


「エレノアッ!?」


 名を呼んでもエレノアは一切振り向くことなく、そのままの勢いで今は使われていない倉庫へとアルヴィンを連れ込んだ。


「おい、エレノア。急にどうしたんだよ」


 らしくない行動に驚いていると、エレノアはそのまま倉庫の扉へ近づき、誰かが追ってきていないか確かめるように耳を澄ませた。

 しばらくして誰も来ていないことを確認すると、エレノアは静かに倉庫の扉へ鍵を掛ける。


「エレノア……そろそろ説明してくれよ」


(どうして朝からこんなカビ臭い倉庫に連れ込まれることになるんだよ……)

 ようやく顔を合わせたと思ったら、エレノアも寮で噂話をしていた貴族たちと同じように血相を変えており、その勢いのままアルヴィンを問い詰めた。


「あなた、昨日は一日どこで過ごしていたの!?」


「はぁ? 昨日がどうしたんだよ」


「いいから! 正直に答えて!」


 エレノアの慌てようから、相当なことが起きたのだろうとは察したが、それでもなぜそんなことを聞くのかは見当もつかなかった。

(本当に何が起きたんだよ……)

 アルヴィンは訳も分からないまま答えた。


「昨日は朝からローザの店を出て、そのまま学院に帰ってきただけだ」


 エレノアはアルヴィンの答えを頭の中で整理するように一瞬考え込むと、さらに質問を重ねた。


「ローザさんのお店から……。お店を出たのは何時頃の話?」


「何時って、はっきり覚えてないけど、確か……日が昇り始めた頃だったと思う」


「そう……。それを見ていた人は?」


「ローザぐらいか?」


「なら、移動中はあなた一人だったってことね」


 エレノアがなぜここまで執拗に昨日の行動を探ってくるのか。

 その理由も説明されないまま我慢の限界に達したアルヴィンは、考え込むエレノアの肩を掴み、強い口調で問いただした。


「なぁ、そろそろ説明をしてくれてもよくないか?」


「そ、そうよね……。取り乱してごめんなさい」


「朝も貴族連中が騒がしかったけど、何が起きたんだよ」


 エレノアはようやく落ち着きを取り戻すと、アルヴィンを真っ直ぐ見つめ、事の発端を話し始めた。


「あなたが参加していたパーティーで、一緒にいた令嬢のこと、覚えてるわよね?」


 アルヴィンは数日前の記憶を辿り、やたらと煌びやかな装いに身を包み、甘い香水の香りを纏った令嬢の姿を思い出す。


「…………彼女、宝石商の名家でもあるベルフォード家の嫡女なんだけど」


 一度言葉を切り、エレノアは苦しそうに唇を噛む。


「昨夜……ベルフォード家が、一家全員惨殺されたの」


「…………は? 一家全員、惨殺された?」


 エレノアの口から飛び出した言葉はあまりにも現実味がなく、アルヴィンは思わず聞き返した。


「そう。今朝、ご遺体が発見されたそうよ……。その状況から見て、見せしめだろうって話になっているらしくて」


「見せしめだって? どうして、見せしめだって分かったんだよ」


 エレノアは苦しげに視線を落とすと、小さく息を吐いた。


「従者や護衛を務めていた騎士を含め、一家全員が殺されていて、ご遺体には複数箇所を刺されたような傷跡があったらしいわ」


 そこまで話すと、エレノアは再び言葉を詰まらせた。


「それに……決定的だったのは、全員のご遺体が屋敷の前に吊るされていたらしいの」


 殺され方や遺体の扱われ方から、見せしめだという結論に至ったということだった。

(想像するに、遺体の損傷は相当酷かったのだろう……。第一発見者は、今後一生忘れられない光景になったはずだ)

 

「遺体が吊るされてた……。殺した犯人は、相当何かを伝えたかったんだろうな」


(一家全員を惨殺するだけでは飽き足らず、その遺体を人目に晒すことも厭わなかったくらいだ。強いメッセージ性のある殺し……。忠告、いや、警告か?)


「『こうはなりたくないだろ』……ってことか」


「ベルフォード家は商売に関してあまり良い噂を聞いたことがなかったから、関わりのあった家は今、相当混乱している頃よ」


「あぁ、そういうことか」


 エレノアの言葉を聞き、アルヴィンは今朝、寮内で青ざめていた貴族生徒たちの姿を思い出した。

(もし、その良い噂を聞かない商売が今回の事件に繋がっているのであれば、狙われる可能性は十分にあるからな)

 この話を聞いても普段と何ひとつ変わらないアルヴィンの様子に、エレノアは「信じられない」とでも言いたげな目を向けた。


「あなた、この状況が分かってるの?」


「え? 貴族が殺されたって話だろ?」


「違うわよ! その殺害された貴族が、最後に関わりを持っていたのがあなたなのよ!」


「それは分かってるよ。でも、殺された頃には俺は学院にいたし、その事件に俺が関わってるはずないだろ? 何をそんなに焦ってるんだよ。こんな倉庫にまで連れ出して」


 無関係だと主張するアルヴィンに、この状況の深刻さが上手く伝わらず、エレノアはわなわなと震えだした。


「いい? 今回の事件は、名門貴族が何者かによって惨い方法で殺害されたの。こんなことをされて、他の貴族が黙っているはずないわ。今頃、怪しい人物を血眼になって探している頃よ」


「……だから?」


「っ——! だから、あなたの名前が上がるのは時間の問題なの! そうなったら、あなたはどんなに無実を主張しても濡れ衣を着せられるのよ!」


「俺が一家を殺したって証拠がない以上、連行されるわけないだろ?」

 

 エレノアから説明を受けてもなお、アルヴィンの態度は変わらない。


「そんなことより、今日はテストだろ? 早く行かないと間に合わなくなるぞ?」

 

 警戒して鍵まで掛けていた倉庫の扉へ手をかけると、ギギギィ——と地面を擦る音を立てながらゆっくりと開いていく。

 扉が完全に開くと、アルヴィンの体に複数人の影が落ちた。


「ハハッ……そんなことあるかよ」


 アルヴィンの前には厳重な装備に身を包んだ聖騎士たちが立っていた。

 その全員が警戒するように、アルヴィンを鋭く睨みつけている。


「アルヴィン・ヴァルハルト。ベルフォード家殺害の容疑で貴様を連行する」


 その言葉と同時に、アルヴィンは抵抗する間もなく鎖で拘束された。

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