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反逆騎士の叛命録  作者: 黒ひげの猫
1章

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10話 救出への道

 子供たちは自分も力になりたいという思いからか、次々と同時に話し始める。

 誰が何を言っているのか、もはや皆目見当もつかない状態だ。

 それにもかかわらず、子供たちに囲まれたアルヴィンは、一人ひとりの話をしっかり聞き分け、相槌を打ちながら情報を整理していた。

 その姿に、エレノアは驚くと同時に、どこか感心したようにアルヴィンを見つめた。


「よし、だいたい分かった」


 そう言うとアルヴィンは、近くにいた子供たちへ礼を言いながら、一人ひとりの頭をわしゃわしゃと乱雑に撫でていく。

 子供たちはぼさぼさになった髪を整えながらも、楽しそうにアルヴィンとの会話を弾ませていた。

 その光景は、どこか微笑ましいものだった。


「エレノアお姉さんと大事な話をするから、遊んでこいよ」


 子供たちはどこか達成感に満ちた表情を浮かべながら散っていき、しばらくすると、基地のあちこちから楽しそうな笑い声が聞こえ始めた。

 

「あなた、意外と子供の扱いに慣れてるのね」


「意外とってなんだよ。まぁ、昔あのくらいの歳の子供たちと一緒に過ごしてたからな」


 アルヴィンは、物心がついた頃にはすでに、相手の懐へ入り込む術を自然と身につけていた。

 わずかな会話で相手との距離を測り、そのまま懐へ踏み込んでいく。

 長年染みついたその処世術のおかげで、警戒心の強かった子供たちともすぐに打ち解けることができた。

 だが、子供の相手というのは想像以上に体力を使うらしく、アルヴィンは小さく息を吐いた。


「ねぇ、どうして情報を集めるために子供たちを?」


 情報を集めるだけなら、人が多く集まる場所で聞き込みをすればいい。

 それなのにアルヴィンは、あえて子供たちから情報を集め、警戒心を解いて打ち解けるまで時間と手間をかけていた。

 エレノアには、そんな非効率とも思えるアルヴィンの行動が、ずっと引っかかっていた。


「あぁ、それはな子供だからだよ」


 アルヴィンは無邪気に遊ぶ子供たちへ視線を向けながら、エレノアの問いに答えた。

 

「子供……だから?」


「そう。子供は純粋だから、それを利用したんだ」


 まるで当たり前のことのように言われても、その言葉とアルヴィンの行動がまだ上手く結びつかず、エレノアは考え込むように首を傾げた。

 まだ腑に落ちていない様子のエレノアを見て、アルヴィンはくすりと微笑んだ。

 

「大人ってのは噂話が好きだからな。聞き込みをしても勝手に尾ひれがついて、どこまで本当なのか分かんなくなるんだよ。その点、子供は違う。正義を掲げれば、驚くくらい素直に何でも話してくれる。見たものをそのまま口にするから、情報の整理もしやすい。――だから、実際は子供から話を聞いた方が楽なんだ」


 感覚で動いているように見えて、その実すべて計算された行動だったことに、エレノアは呆気に取られた。


「だから……こんな所にまで、子供たちの集まりを探していたの?」


「探してはいたけど、ここを見つけたのは完全に偶然だ。誘拐された子供と繋がってるやつまでいたのは、運が良すぎたくらいだな」


 アルヴィンは軽く息を吐きながら立ち上がると、固まった身体を伸ばした


「子供たちから聞いた詳しい話は、移動しながらにしよう。そろそろ行かないとな。もう時間がない」


「え、えぇ……」


 エレノアも立ち上がると、子供たちの相手をしているアイリスの方へアルヴィンと並んで向き直り、ここを出ることを伝えるように静かに頭を下げた。

 二人が去ることを子供たちに悟られないよう、アイリスもまた何も言葉を発することなく、小さく頭を下げ返す。

 別れの挨拶を終えたアルヴィンたちは、そっと基地を後にした。

 しばらく歩いたところで、ふとエレノアが足を止める。

 アルヴィンが向かっている先が、騎士団の拠点とは真逆の方向だったからだ。


「……一度、拠点に戻るわよね?」


 するとアルヴィンも足を止め、エレノアの方へ振り返る。


「戻らないけど?」


 まるで当たり前のように、アルヴィンはそう答えた。


「な、何を言っているの? ライネル団長は、情報を集めたら拠点へ戻れと……」


 エレノアも、アルヴィンと行動を共にする中で、少しは彼の人となりを理解してきたつもりでいた。

 だが、こうして平然と命令を無視しようとする姿までは、まだ理解が追いついていなかった。


「子供たちが攫われて、もう三日も経ってる。今さら拠点に戻って情報を整理して、騎士団を動かして……そんなことしてたら、手遅れになる」


「でもっ、まだ学生の私たちが向かったところで――」


 エレノアの反論に、アルヴィンはきょとんとしたように首を傾げた。


「エレノアと俺が一緒なんだ。何も怖くないだろ?」


 あまりにも真っ直ぐな言葉を真正面からぶつけられ、エレノアは拍子抜けしたように、だらりと肩から力を抜いた。


「……その自信、どこから湧いてくるのよ」


「決まりだな」


 アルヴィンはにこりと笑うと、そのまま踵を返して歩き出す。

 その背中へ向かって、エレノアは焦ったように声を荒らげた。


「わ、私はまだ何も言ってないわ! 勝手に話を進めないでちょうだい!」


 再び振り返ったアルヴィンは、納得がいかないと言いたげにむっとした表情を浮かべていた。


「一緒に向かうのに、何が不満なんだよ」


「ふ、不満というより……一旦落ち着きましょ。私たち、これからどこへ向かうの? まずは説明をしてちょうだい」


 アルヴィンはその表情を直すことなく、説明を始めた。

 

「これから向かうのは、攫われた子供たちが向かった森だ」


「森?」


「王都の向こう側にある、深い山の中らしい」


 この場所から王都へ向かうだけでも時間がかかる。

 その上、目的地はさらに奥地だ。

 アルヴィンの言う通り、一度拠点へ戻っていては、攫われた子供たちを助け出す時間が足りないことくらい、エレノアにも容易に理解できた。


「いたとしても、攫った子供たちを見張ってるやつが数人いるくらいだろ? 何が不安なんだよ」


 大勢の子供を攫った以上、犯人が複数人で動いていることは間違いない。

 だが、子供の見張りに大人数を割く理由がないのも事実だった。

 アルヴィンの予測通り、見張りは数人程度――エレノアも、その考えには同意していた。

 エレノアはしばらく考え込んだ後、渋々といった様子で頷いた。


「分かったわ。でも、少しでも異変を感じたらすぐに引き返すこと。――これが条件よ」


「了解」


 ようやく意見がまとまり、精霊の森へ向かおうとした――その時だった。

 背後から、駆け寄ってくる一人の足音が聞こえてくる。


「オレも連れてってくれよ!」


 響き渡ったその声に、アルヴィンたちは「しまった!」と言いたげに表情を歪める。


「置いてくなんて、酷いだろ!」


 息を切らしたロウが、アルヴィンとエレノアを真っ直ぐ見上げる。

 その瞳には、決して揺らぐことのない強い決意が宿っていた。


「おいおい……罠には引っかからなかったはずだろ? なんで追いかけてきたんだよ」


 アルヴィンは呆れたようにため息を吐く。


「森に行くんだろ! オレも一緒に行かせてくれ!」


 ロウの必死な願いに、アルヴィンは即座に「駄目だ」と言い切った。


「あのな、俺たちはこれから森へ遊びに行くんじゃない。子供が出てくるような場所じゃないんだよ。ほら、基地に戻れ」


 アルヴィンは追い払うようにロウへ基地へ戻るよう促すが、当の本人はまるで聞き入れる様子がなかった。


「オレも役に立ちたいんだ!」


 アルヴィンとエレノアが困ったように顔を見合わせる中、ロウは畳み掛けるような勢いで、自分の価値を訴え続ける。


「さっき、時間がないって言ってたよな!」


「……それがどうした?」


「兄ちゃんたち、知ってるのかよ! 森へ行くための最短ルートを!」


 ついに痛いところを突かれてしまった。

 子供たちから情報を聞き出したところで、結局は予想と勘を頼りに探すしかなく、正直なところ案内役が欲しいと思っていたところだった。


「オレは、日が落ちる前に森へ行ける!」


 自信に満ちたロウの瞳を前に、アルヴィンたちは言葉を失った。

 すでに日は傾き始めていて、もう時間との勝負だった。

 暗闇の中、しかも初めて足を踏み入れる森で子供たちを探すのは困難を極める。

 さらに、日が沈めば犯人たちから襲撃を受ける危険性も跳ね上がるだろう。

 アルヴィンがちらりとエレノアへ視線を向けると、彼女もまた同じ結論に至っていたらしい。

 ほぼ同時に、深いため息が漏れた。


「…………分かったよ。案内を頼みたい。でも、危険だと感じたらすぐ逃げること。俺とエレノアお姉さんの指示には、必ず従う。約束できるか?」


 ロウは「必ず誓う」と言わんばかりに、何度も強く頷いた。


「んじゃ――子供たちを助けに行きますか」


 アルヴィンとエレノアは、ロウの案内を頼りに森へ向かった。

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