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消えた君を取り戻すために、少女は巻き戻って運命を変えたい  作者: 桜木 黎明


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6/10

薔薇の箱庭

 数日後、ユリウスからお茶会の招待状がみんなへ渡された。


****


 当日、王城の正門の前に四人が集まった。


 石造りの高い門。整然と並んだ衛兵。


 レオガルドが門を見上げて腕を組んだ。


「やっぱ王城はでかいな!来るたびにそう思う」


「落ち着きなさい。みっともない」


 ヴァンが穏やかにたしなめる。


「落ち着いてるって!テンション上がってるだけで」


「それを落ち着きがないというのよ」


「細かい!」


 セレナはそのやり取りを聞き流しながら、門の彫刻をじっと眺めていた。興味の方向がいつも独特だった。


 フィオナも久しぶりに王城の正門を前にして、少しだけ背筋が伸びる感じがした。


 パーティーや公式行事以外でこうして集まるのは、確かに久しぶりだった。


 門をくぐってすぐ、ユリウスが出迎えに来ていた。


「来てくれてありがとう。待ってたよ」


「ユリウス!」


 レオガルドが大きな声を上げる。ユリウスが苦笑いをしながら「もう少し声を抑えて」と言った。


「姉上はまだ用事が片付いていないみたいで、少し遅れるって。先に中庭で始めててほしいって伝言があった」


「ロザリア様、忙しいんだね」


「うん、ごめんね。でも必ず来るから」


 ユリウスに案内されながら、一行は中庭へ向かった。


****


 王城の中庭は広かった。


 手入れの行き届いた芝生の上に、白いテーブルと椅子が並べられている。


 薔薇の生垣が風に揺れて、甘い香りが漂っていた。


「わあ、すごい!薔薇の香りがここまでするんだね!」


 フィオナが思わず声を出す。


「この庭はほとんどが薔薇だからね」


 テーブルの上にはすでに紅茶と焼き菓子が用意されていた。


「このクッキー、うまそう!」


 レオガルドが手を伸ばした。


「あ、ずるい!」


「行儀が悪い、二人とも。まず席につかないと」


 ヴァンが呆れた顔でたしなめる。


「固いこと言うなよ、ヴァン」


「固くない、常識よ」


「お前ってほんとそういうとこあるよな!」


「どういうとこよ」


「なんかこう…お母さんみたいな…」


 ヴァンが一瞬止まった。


「…それは褒めてるの?」


「褒めてる!」


「あはは!確かに、お母さんっぽい!」


 フィオナが笑いながら同調する。


「フィオナまで!もう、あなた達ったら…」


 ヴァンが小さく息を吐いた。


 ユリウスが穏やかに笑って三人を見ている。


 セレナはすでに紅茶を一口飲んでいた。マイペースに焼き菓子へ手を伸ばし、誰の話を聞くでもなく静かに口へ運んでいる。ふと気づくと、さっきまであった小皿の菓子がきれいになくなっていた。


「あ!セレナ、もうなくなってる!」


「…おいしい」


 フィオナは笑いながら紅茶を飲んだ。


 温かくて、やさしくて。


 ふと、肩の力が抜けていくのが分かった。


 入学してからずっと、何かを考えていた。何かを探していた。


 ただ笑っているだけでいい時間が、久しぶりだった。


****


 お茶会が一段落した頃、ユリウスが「中庭、結構奥まであるんだ」と言った。


「姉上が来るまで、中庭を散策する?」


 みんなで立ち上がって、ゆっくりと芝生を歩き始める。


 手入れされた生垣が続いていた。


 しばらく進むと、フィオナはふと足を止めた。


 生垣の一部に、小さな隙間があった。


 その奥に、細い小道が続いている。


「…ねえ、あそこ」


「あ、本当だ」


 ユリウスが首を傾げた。


「こんな道、あったっけ」


「知らないの?」


「うん…中庭は広いから、全部は把握してないけどここら辺までは結構来るはずなんだけどな」


 レオガルドがもう迷わず踏み込んでいた。


「行ってみようぜ」


「待ちなさい、勝手に」


 ヴァンの声よりレオガルドの足が早かった。


 仕方なく全員で続く。


 小道を抜けると、視界が開けた。


 小さな庭だった。


 生垣に囲まれた、こじんまりとした空間。中央に古びたテーブルセットが置かれていて、その周りをぐるりと薔薇が取り囲んでいる。


 赤い薔薇。青い薔薇。黄色い薔薇。淡いピンクの薔薇。


 それぞれがきれいに区画されるように植えられていて、どれも手入れが行き届いていた。


「きれい…」


 フィオナは思わず呟いた。


「誰かが手入れしてるんだね」とユリウスが言う。「でも本当に知らなかった。こんな場所があったなんて」


「四色に分けて植えてあるのが面白いな」レオガルドが生垣の近くを覗き込んだ。


「計算して植えてある」セレナが薔薇の株元をじっと観察している。「魔法的な処置も施されている。これだけきれいに保つには相当な手間がかかる」


「誰がこんな場所を」


 ヴァンが静かに周りを見渡した。


 答えは誰も持っていなかった。


 ただ、その場所はとても丁寧に作られていた。


 隠されて、大切に守るように。


****


「何をしているの」


 静かな声が、後ろから落ちてきた。


 全員が振り返る。


 生垣の入り口に、黒のロングウェーブの髪をした女性が立っていた。


 ロザリアだった。


 王族特有の夜空のような瞳。落ち着いた佇まい。


 ただ今はその目が、いつもより数度低い温度をしていた。


「ここは立ち入り禁止よ。早く出て」


 声は静かだった。怒鳴ってはいない。


 でも、有無を言わさない何かがあった。


 レオガルドでさえ口を開けなかった。


「…はい」


 ユリウスが最初に動いた。


 全員がそれに続いて、黙って小道を戻っていく。


 フィオナも歩きながら、一度だけ振り返った。


 ロザリアはまだ入り口に立っていた。


 こちらを見ていない。


 ただ庭の方を向いて、静かに立っていた。


****


 全員が小道を抜けて、元の中庭へ戻った。


 ロザリアの足音は聞こえない。


 まだあの場所にいるのだろう。


 小道の向こう、生垣の奥。四色の薔薇が咲く、誰も知らなかった庭。


 フィオナには、あの場所が何なのか分からなかった。


 ただロザリアがあの庭を見つめていた顔だけが、頭に残っていた。


 あれは、どんな顔だったのだろう。

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