表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
夫を奪ったアイドルの娘が、なぜか私を「ママ」と呼んだ。  作者: 熊猫ぱんだ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
83/85

最後の被験者

「被験者・Ω(オメガ)」


その名前が読み上げられた瞬間。


橋の上にいた全員が言葉を失った。


「……オメガ?」


私は思わず聞き返す。


年配の警察官が無線へ問いかける。


「記録を続けてください」


無線の向こうでページをめくる音が響く。


「最終巻、一ページ目です」


若い警察官の声が震えていた。


「被験者・Ω」


「本計画における最終観察対象」


私は蒼を抱く腕に力を込める。


もう誰も傷ついてほしくない。


ただ、それだけだった。


「次を読みます」


数秒の沈黙。


「“零の観察は成功した”」


「“しかし、本当の目的はΩである”」


橋の空気が重くなる。


百合子が目を閉じた。


「やめて……」


小さな声だった。


「それ以上は……」


しかし無線は止まらない。


「“Ωは自ら選択し、自ら愛し、自ら家族を作るかを観察する”」


私は眉をひそめた。


意味が分からない。


「家族を……作る?」


蓮も困惑した表情で立ち尽くしている。


その時。


無線の向こうの警察官が息をのんだ。


「最後に名前があります」


橋の上が静まり返る。


「被験者・Ω」


紙をめくる音。


そして。


震える声で読み上げた。


「神崎真白」


私は呼吸を忘れた。


「……私?」


頭の中が真っ白になる。


「そんな……」


百合子が涙を流しながら頷いた。


「そうよ」


「あなただった」


私は首を振る。


「違う」


「私は普通に生きてきた」


「学校へ行って」


「友達もいて」


「結婚して」


「子どもも産んで」


百合子は苦しそうに笑った。


「だから成功だったの」


私は理解できない。


「何が成功なの?」


百合子は私の目をまっすぐ見つめた。


「あなたは憎しみの中で育った」


「家族を失い」


「記憶も奪われ」


「何度も裏切られた」


涙が止まらない。


百合子は続ける。


「それでも」


優しい声だった。


「あなたは人を愛ぶことをやめなかった」


私は結衣を見る。


蒼を見る。


蓮を見る。


そして百合子を見る。


確かに。


傷ついた。


何度も。


それでも。


家族を守りたいと思った。


百合子は微笑んだ。


「それが、あの人には理解できなかった」


その時。


無線の向こうで若い警察官が叫んだ。


「警部!」


「最終ページです!」


全員が息を止める。


「最後に一文だけ書かれています!」


年配の警察官が静かに言う。


「読んでください」


数秒後。


若い警察官がゆっくり読み上げた。


「Ωが家族を選んだ時、この実験は失敗となる。」


橋に朝日が差し込む。


長かった夜が終わる。


百合子は涙をぬぐいながら、小さく笑った。


「真白」


私は振り向く。


百合子は穏やかな表情で言った。


「あなたが負けなかったから」


「この実験は終わったのよ」


その瞬間。


遠くからパトカーのサイレンではない、一台の黒い車のエンジン音が近づいてきた。


年配の警察官が振り返る。


「止まれ!」


しかし車は減速しない。


一直線に橋へ向かってくる。


運転席には、一人の老人。


穏やかに笑いながら、フロントガラス越しに真白だけを見つめていた。


そして唇がゆっくり動く。


「合格だよ、真白。」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ