表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
夫を奪ったアイドルの娘が、なぜか私を「ママ」と呼んだ。  作者: 熊猫ぱんだ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
81/85

実験記録

『神崎家実験記録 第1巻』


その題名を聞いた瞬間。


百合子の顔から血の気が消えた。


「……燃やしたはず」


誰にも聞こえないほど小さな声だった。


年配の警察官が無線へ問いかける。


「中身は確認できるか?」


数秒後。


ページをめくる音が聞こえた。


「確認します」


静まり返った橋。


風の音だけが耳に残る。


やがて。


無線の向こうの警察官が読み始めた。


「一ページ目です」


「被験者管理規則」


私は思わず耳を疑う。


「被験者……?」


警察官の声は重かった。


「“子どもは名前ではなく番号で管理すること”」


「“親子関係は観察結果に影響するため、必要に応じて変更すること”」


私は蒼を抱き寄せる。


信じられなかった。


子どもを。


実験の対象として扱っていたなんて。


「次のページです」


無線の向こうで紙をめくる音がする。


「被験者零」


私は息を止めた。


零。


蒼だ。


「生後三日」


「母親への愛着形成は順調」


「分離後の経過観察を開始」


涙があふれる。


生まれて三日で。


私たちは引き離された。


その時。


百合子が震える声で言った。


「もう読まないで」


しかし。


無線の向こうの警察官は続けた。


「次の行です」


一瞬、沈黙。


そして。


驚いたような声。


「……おかしい」


「どうした?」


年配の警察官が問い返す。


「この記録を書いた人物名です」


橋の空気が変わる。


「署名は……」


数秒。


誰も息をしない。


そして。


読み上げられた名前。


『神崎百合子』


私は凍りついた。


「……え?」


ゆっくりと百合子を見る。


百合子は何も言わない。


ただ。


涙を流していた。


「違う」


震える声。


「最初は違ったの」


私は混乱する。


「どういうこと?」


百合子は静かに目を閉じた。


「私は小児科医だった」


「病気の子どもを救いたかった」


涙がこぼれる。


「でも、神崎家に入ってから……」


声が震えた。


「研究だと言われた」


「命を救うためだと信じた」


私は何も言えなかった。


百合子は自分の両手を見つめる。


「気づいた時には」


嗚咽が漏れる。


「もう戻れなかった」


長い沈黙。


その時。


無線の向こうから慌てた声が響く。


「警部!」


「日記の最後に封筒があります!」


「何が入っている?」


紙が取り出される音。


そして。


若い警察官の息をのむ音が聞こえた。


「これは……」


「何だ!」


「DNA鑑定書です!」


橋の上が静まり返る。


「対象者は二名」


私は無意識に一歩前へ出た。


「名前は?」


無線の向こうで紙をめくる音。


そして。


震える声で読み上げた。


「神崎真白と……神崎百合子」


私は百合子を見つめた。


百合子も私を見ていた。


警察官は最後の一行をゆっくり読み上げる。


「鑑定結果──親子関係は認められない」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ