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夫を奪ったアイドルの娘が、なぜか私を「ママ」と呼んだ。  作者: 熊猫ぱんだ


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死んだはずの人

「十五年前に死んだはずの人からよ」


百合子の声は震えていた。


橋の上にいた全員が息をのむ。


私は思わず聞き返した。


「……誰なんですか」


百合子はスマートフォンを強く握りしめた。


画面には。


非通知。


通話時間は二十三秒。


それだけが残っている。


「間違いない」


百合子は青ざめた顔で呟いた。


「あの声だった」


蓮が一歩前へ出る。


「あの声?」


百合子はゆっくり目を閉じる。


「神崎家を壊した人」


橋の空気が凍りつく。


「その人は十五年前」


「火事で亡くなったことになっている」


私は首を振った。


「ことになっている……?」


百合子は頷く。


「遺体の確認ができなかったの」


長い沈黙。


「だから警察は死亡と判断した」


「でも私は」


涙を浮かべながら続ける。


「ずっと生きていると思っていた」


その時。


年配の警察官が静かに尋ねた。


「電話では何と?」


百合子は震える唇をゆっくり開く。


「あの人は最初に」


少し間を置く。


「“久しぶりだね、百合子”と言った」


誰も動けない。


「そして」


百合子の手が震える。


「こう言ったの」


静かな朝の風が橋を吹き抜ける。


『まだゲームは終わっていない』


私は背筋に冷たいものが走る。


ゲーム。


あの人にとって。


私たちの人生は。


ゲームだったの?


その時。


警察官の無線が鳴る。


「本部より各員」


切迫した声だった。


「先ほど病院の防犯カメラに、不審者が映りました」


私は顔を上げる。


「病院?」


「現在、産婦人科病棟へ向かった可能性があります」


私は反射的にお腹を押さえた。


百合子も同じことを考えたのだろう。


「まさか……」


警察官は険しい表情で頷く。


「真白さん」


「すぐに病院へ向かいましょう」


その時。


蒼が私の服をぎゅっとつかんだ。


「ママ」


私はしゃがみ込み、蒼と目を合わせる。


「どうしたの?」


蒼は不安そうに病院の方角を見た。


そして、小さな声で言った。


「ぼく」


少し震えながら。


「その人、知ってる」


橋の空気が止まる。


私は思わず蒼の肩をつかんだ。


「会ったことがあるの?」


蒼はゆっくり頷く。


目には恐怖が浮かんでいた。


「夜になると」


「たまに来てた」


「ぼくに、いつも同じことを言うの」


私は息を止める。


「何て?」


蒼は泣きそうな顔で、震える声を絞り出した。


「『お前は、まだ本当の名前を知らない』って……」

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