表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
夫を奪ったアイドルの娘が、なぜか私を「ママ」と呼んだ。  作者: 熊猫ぱんだ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
72/85

もう一人の真白

「今のあなたじゃない」


私は百合子を見つめた。


「……どういう意味?」


声が震える。


手の中の手紙も震えていた。


百合子はすぐには答えなかった。


何かを決心するように、ゆっくり息を吸う。


「真白」


静かな声。


「あなたは三年前の事故で、一部の記憶を失ったの」


私は固まる。


「事故……?」


蓮が顔を上げた。


「交通事故か?」


百合子は首を横に振る。


「違う」


長い沈黙。


そして。


「橋から落ちたの」


橋。


その言葉に背筋が冷えた。


「落ちたのは紬じゃ……」


「結衣だけじゃない」


百合子の目に涙が浮かぶ。


「あなたも落ちたの」


私は息を止める。


頭の奥で何かが弾ける。


暗い夜。


冷たい川。


誰かの泣き声。


必死に伸ばした手。


『赤ちゃんだけは……!』


断片的な映像が頭をよぎる。


「……っ」


激しい頭痛に膝をつく。


蒼が慌てて私にしがみつく。


「ママ!」


結衣も支える。


「無理しないで!」


私は目を閉じた。


すると。


手紙の文字が頭の中で重なる。


『いつかほんとうのおかあさんがむかえにくるから』


あれは。


未来の私じゃない。


事故の前の私が書いた文字だった。


「思い出した……」


涙があふれる。


「結衣」


私はゆっくり結衣を見る。


「あなたを抱きしめた」


結衣の目から大粒の涙がこぼれる。


「うん……」


「お母さんが見つからなくて」


「一人で泣いてた」


私の胸が締めつけられる。


病院の混乱。


蒼。


見知らぬ赤ちゃん。


私は泣いている結衣を抱き上げた。


『大丈夫』


『お母さんが来るまで、一緒にいるから』


その約束。


その夜に書いた手紙だった。


私は声を上げて泣いた。


「ごめんね」


結衣を抱きしめる。


「約束、守れなかった」


結衣は何度も首を横に振る。


「違う」


涙を流しながら笑う。


「迎えに来てくれた」


「ちゃんと」


私はもう言葉にならなかった。


その時。


年配の警察官が静かに近づいてくる。


「真白さん」


私は涙をぬぐって顔を上げた。


警察官は一枚の書類を差し出した。


「先ほど病院から追加資料が届きました」


私は受け取る。


古い入院記録。


一番下に、小さく追記されていた。


『身元不明女児 後に保護施設へ移送』


その横には。


施設名と、保護された日付。


そして。


施設で新たに付けられた名前。


私は息を止めた。


そこに書かれていたのは。


『紬』


結衣は最初から、自分を紬だと信じていたわけではなかった。


施設で新しく付けられた名前を、本当の名前だと思って生きてきたのだった。


その瞬間。


百合子が静かに呟く。


「これで……最後の一人を探せる」


私は顔を上げる。


「最後の一人?」


百合子はゆっくり頷いた。


そして。


今まで隠していた最後の事実を口にした。


「結衣のお母さんは、生きています」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ