DNA
「DNA鑑定の結果、結衣さんと真白さんに親子関係は認められませんでした」
橋の上から音が消えた。
私は結衣を抱きしめたまま固まる。
「……違う」
思わず呟く。
「そんなはずない」
結衣も震えていた。
「ママ……」
小さな声。
その声が胸を締めつける。
年配の警察官が静かに説明する。
「倉庫から採取された結衣さんの歯ブラシと、真白さんのDNAを照合しました」
「結果は一致しませんでした」
私は首を振る。
「何かの間違いです」
「再鑑定も行いました」
警察官の声も苦しそうだった。
「結果は同じです」
私は何も言えなくなる。
その時。
百合子が静かに口を開いた。
「当然よ」
全員が百合子を見る。
「結衣は、真白の子じゃないもの」
橋の空気が張りつめる。
「じゃあ……」
私は震える声で尋ねた。
「結衣は誰なの」
百合子は少し目を閉じた。
「病院にいた子」
「同じ日に生まれた女の子」
私は息を止める。
「同じ日に……?」
百合子は頷く。
「出産が重なったの」
「隣の分娩室で」
頭の中が混乱する。
じゃあ。
双子だったというカルテは?
「カルテは改ざんされた」
百合子が静かに言う。
「本当は別々の親子だった」
橋の上が静まり返る。
その時。
蓮が低い声で呟いた。
「じゃあ、俺たちの娘は……」
百合子は答えなかった。
代わりに涙を流した。
その涙が答えだった。
「見つかっていない」
私はその場に崩れ落ちそうになる。
「そんな……」
蒼が私の手を握る。
小さな温かい手。
「ママ」
私は蒼を抱きしめる。
涙が止まらない。
その時だった。
結衣がポケットに手を入れた。
「そうだ……」
小さく呟く。
「ずっと持ってた」
取り出したのは、小さく折り畳まれた紙だった。
黄ばんでいる。
何度も開いては閉じた跡がある。
「これ」
結衣が私に差し出す。
「先生が見つけたら捨てられるから、ずっと隠してた」
私は震える手で紙を開く。
そこには、子どもの字でたった一行だけ書かれていた。
『ゆいへ あおをまもってくれてありがとう いつかほんとうのおかあさんがむかえにくるから しんじてまっていて ましろ』
私は息をのんだ。
「私が……書いた?」
百合子が静かに首を振る。
「違う」
私は顔を上げる。
百合子は涙を流しながら言った。
「その手紙を書いた真白は」
長い沈黙。
そして。
震える声で続けた。
「今のあなたじゃない」




