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夫を奪ったアイドルの娘が、なぜか私を「ママ」と呼んだ。  作者: 熊猫ぱんだ


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双子だった

「『出産したのは双子』と記録されています」


橋の上が静まり返った。


「……双子?」


私は聞き返した。


自分の声とは思えないほど掠れていた。


年配の警察官はカルテの写しを見つめながら頷く。


「はい」


「出産時の記録には、男児一名、女児一名とあります」


私は首を振った。


「違う……」


そんなはずがない。


私は蒼しか知らない。


「私は一人しか……」


その瞬間。


頭の奥が激しく痛んだ。


白い病室。


眩しい照明。


誰かが言う。


『お母さん、頑張りましたね』


そして。


かすかに聞こえた。


二人分の泣き声。


「……っ」


私は頭を押さえた。


「ママ!」


紬が支える。


蒼も不安そうに私を見上げる。


「大丈夫……」


そう言いながらも、涙が止まらなかった。


思い出しかけている。


何かを。


その時。


百合子が静かに口を開いた。


「あなたは見たのよ」


私は顔を上げる。


「最初に」


「二人を」


胸が締めつけられる。


「男の子と」


少し間を置いて。


「女の子を」


私は震える。


「じゃあ……」


百合子は苦しそうに頷いた。


「双子だった」


橋の上に重い沈黙が落ちる。


その時。


蓮が立ち上がった。


顔色は真っ白だった。


「女の子は……?」


百合子は答えなかった。


代わりに、警察官がカルテの次のページを開く。


「出生時の足形があります」


私は息を止めた。


二つ。


小さな足形が並んでいる。


その下には、それぞれ名前を書く欄があった。


男児。


空欄。


女児。


そこにも空欄。


「名前は、まだ決めていなかったんですね」


警察官が静かに言う。


私は小さく頷いた。


「二人で決めようって……」


その約束だけは思い出せた。


その時だった。


蒼が私の腕の中で目を覚ました。


眠そうに目をこすりながら、小さな声で言う。


「ママ」


私は笑って頷いた。


「どうしたの?」


蒼は少し考えてから、不思議そうに言った。


「ねえね、どこ?」


私は紬を見る。


「紬ならここに──」


「ちがう」


蒼は首を振った。


「もう一人のねえね」


橋の空気が凍りつく。


私は言葉を失った。


「……もう一人?」


蒼は当然のように頷く。


「いつも遊んでくれた」


「お歌、歌ってくれた」


「でも」


少し寂しそうに俯く。


「急にいなくなった」


誰も動けなかった。


紬も蒼を見つめたまま固まっている。


そして。


百合子がゆっくり目を閉じた。


「やっぱり覚えていたのね」


私は震える声で聞いた。


「……誰なんですか」


百合子は涙を浮かべながら答えた。


「あなたのもう一人の娘よ」


私の呼吸が止まる。


「でも」


百合子の声が震える。


「その子は、三年前から行方不明なの」

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