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夫を奪ったアイドルの娘が、なぜか私を「ママ」と呼んだ。  作者: 熊猫ぱんだ


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私が残った理由

「私、自分から残ったの」


橋の上が静まり返る。


私は紬の肩を抱いたまま動けなかった。


「……どういうこと?」


紬は俯いた。


小さな肩が震えている。


蒼も不安そうに姉を見つめていた。


「思い出した」


紬は涙をぬぐう。


「全部じゃないけど……」


ゆっくり息を吸う。


「蒼が生まれたあと」


私は息を止めた。


「ゆめママが来た」


紬の声は震えていた。


「蒼を連れて行こうとした」


百合子が目を閉じる。


苦しそうだった。


「私は嫌って言った」


紬は蒼の頭を優しく撫でた。


「この子はママの子だからって」


蒼は何も分からないまま、紬の手を握った。


「でも」


紬は唇を噛む。


「ゆめママが言ったの」


長い沈黙。


そして、小さく呟いた。


「お姉ちゃんが来るなら、この子は生かしてあげる」


胸が締めつけられる。


私は何も言えなかった。


「だから私……」


涙が次々と落ちる。


「一緒に行くって言った」


橋にいた全員が息をのんだ。


「蒼を置いていけなかった」


私は紬を強く抱きしめた。


「もういい」


声が震える。


「もう十分だよ」


紬は首を横に振る。


「違う」


「え?」


「私、約束したの」


「いつかママが迎えに来るまで」


涙でぐしゃぐしゃになりながら笑う。


「私が蒼を守るって」


その瞬間。


蒼が紬へ抱きついた。


「おねえちゃん」


小さな腕で、必死に紬を抱きしめる。


「ありがとう」


紬はとうとう声を上げて泣いた。


「ごめんね」


「怖かったよね」


「ずっと一人にして、ごめんね」


私は二人を包み込むように抱きしめた。


「もう終わった」


涙が止まらない。


「もう誰も離れない」


その時だった。


年配の警察官が、USBメモリを持って戻ってきた。


「映像を確認しました」


表情は青ざめている。


「どうでしたか」


百合子が静かに尋ねる。


警察官は深く息を吸った。


「監視カメラ映像が残っていました」


橋の空気が変わる。


「蒼くんが連れ去られた日の映像です」


私は思わず立ち上がる。


「映っていたんですか?」


警察官はゆっくり頷いた。


「ただし」


一度言葉を切る。


「犯人は星乃ゆめではありませんでした」


時間が止まる。


「……え?」


警察官は苦しそうな顔で続けた。


「映像では」


「星乃ゆめさんは蒼くんを止めようとしていました」


私は言葉を失う。


そんなはずがない。


だって。


ここまで。


すべてはゆめが──。


その時。


百合子が静かに目を閉じた。


「やっぱり……」


小さく呟く。


私は振り向く。


「お母さん」


百合子は私を見つめた。


悲しそうな笑顔だった。


そして。


震える声で言った。


「真白、本当の誘拐犯は……蓮なの」

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