表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
夫を奪ったアイドルの娘が、なぜか私を「ママ」と呼んだ。  作者: 熊猫ぱんだ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
59/85

封筒の中

橋の上には、サイレンだけが響いていた。


私は紬を抱きしめたまま離さない。


紬も私の服を握りしめている。


「ママ……」


その声だけで十分だった。


血なんて関係ない。


私はもう決めていた。


この子は守る。


何があっても。


その時。


年配の警察官が静かに口を開く。


「この封筒を確認します」


全員の視線が集まる。


茶色い封筒。


封はされていない。


警察官が慎重に中身を取り出した。


最初に出てきたのは、一冊の母子手帳。


私は息をのむ。


表紙には、はっきりと書かれていた。


神崎 真白


思わず一歩前へ出る。


「……私の」


ページが開かれる。


妊娠経過。


出産予定日。


病院名。


全部、記入されている。


震える。


私は確かに妊娠していた。


夢じゃない。


勘違いでもない。


その次に出てきたのは、出生証明書だった。


警察官の表情が変わる。


「母親は……神崎真白」


私は蒼を抱きしめる。


涙が止まらない。


「父親は……」


警察官が続きを読もうとした、その時だった。


「読まないで」


女性が静かに言った。


橋の空気が張りつめる。


「そこから先は本人が見るべきよ」


警察官は女性を見る。


少し迷ったあと、書類を閉じた。


「後で正式に確認します」


女性は小さく頷いた。


「それでいいわ」


私は胸のざわつきを抑えられなかった。


父親。


どうして隠すの?


その時。


封筒から最後の一枚が落ちた。


写真だった。


私は思わず息を止める。


病室。


ベッドの上で眠る私。


腕の中には、生まれたばかりの赤ちゃん。


そして。


その横で赤ちゃんを見つめている、小さな女の子。


五歳くらい。


笑顔で赤ちゃんの指を握っている。


私は写真を見つめた。


「……この子」


震える声が漏れる。


その女の子は。


紬だった。


「え……?」


私は写真と隣の紬を見比べる。


同じ笑顔。


同じ目。


でも年齢が違う。


紬も写真を見た瞬間、固まった。


「私……?」


女性は静かに頷く。


「ええ」


「でも、私は……」


紬は混乱していた。


「十歳だよ?」


女性は静かな声で答えた。


「その写真が撮られたのは、五年前」


空気が止まる。


五年前?


計算が合わない。


五年前なら、紬は五歳くらいのはず。


でも。


今は十歳くらいに見える。


「どういうこと……?」


女性はゆっくり目を閉じた。


「それが、あなたたちがまだ知らない真実」


その瞬間。


橋の下から、別の警察官が走ってきた。


息を切らしながら叫ぶ。


「本部から連絡です!」


全員が振り向く。


警察官は女性を見た。


そして、信じられない言葉を口にした。


「この女性の身元が判明しました!」


橋の上が静まり返る。


警察官は手帳を見つめながら読み上げる。


「氏名──」


数秒、間が空く。


そして。


「神崎 百合子」


私は凍りついた。


神崎。


私と同じ名字。


女性は静かに目を閉じる。


そして。


初めて私に向かって微笑みながら言った。


「真白……ずいぶん大きくなったわね」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ