表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
夫を奪ったアイドルの娘が、なぜか私を「ママ」と呼んだ。  作者: 熊猫ぱんだ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
56/85

離さない

「いやああああっ!!」


橋の上に悲鳴が響く。


私の右手には。


蒼の小さな手。


細い。


温かい。


震えている。


「ママ!」


蒼が泣きながら叫ぶ。


私は歯を食いしばった。


「離さない!」


風が強く吹く。


腕が痛い。


でも。


絶対に離さない。


その瞬間。


「真白!」


蓮が駆け出した。


警察官も一斉に動く。


「確保します!」


「子どもを最優先!」


数人の警察官が橋の端へ走る。


ゆめはガードレールにしがみついていた。


片手だけで。


今にも落ちそうだった。


「助けて……」


震える声。


さっきまでの狂気はない。


ただ。


怯えた一人の人間だった。


蓮が立ち止まる。


蒼を見る。


ゆめを見る。


苦しそうに顔を歪める。


「蓮さん!」


警察官が叫ぶ。


「子どもを!」


蓮は迷わなかった。


真っ直ぐ蒼の方へ走る。


二人で蒼を抱き上げる。


「大丈夫だ」


蓮の声も震えていた。


私は蒼を強く抱きしめた。


小さな体。


温かい。


ちゃんと生きてる。


「ママ……」


蒼は私の首にしがみつき、声を上げて泣いた。


「怖かった……」


その一言で。


私も涙があふれた。


「ごめんね」


何度も。


何度も謝る。


「ごめんね……」


その時だった。


「ゆめさん!」


警察官の叫び声。


私は顔を上げる。


ゆめの手が滑っていた。


ガードレールの外側。


指先だけで支えている。


「助けて……」


小さな声。


「落ちる……」


蓮が一歩前へ出ようとする。


しかし警察官が腕をつかむ。


「危険です!」


ゆめは蓮を見た。


涙を流しながら。


「蓮さん」


掠れた声。


「最後に一つだけ」


蓮は黙ったまま見つめる。


ゆめは笑った。


悲しそうに。


諦めたように。


「一回だけ」


少し間。


「本気で好きになってくれた?」


橋の上が静まり返る。


蓮は目を閉じた。


長い沈黙。


そして。


ゆっくり答えた。


「……好きだった」


ゆめの目から涙がこぼれる。


「そう」


小さく笑う。


「それだけ聞きたかった」


次の瞬間。


警察官がゆめの腕をつかんだ。


「引き上げます!」


数人がかりでゆめをガードレールの内側へ引き戻す。


ゆめは抵抗しなかった。


ただ。


私の腕の中の蒼を見つめていた。


そして。


静かに呟く。


「……ごめんね」


その言葉が。


誰に向けられたものなのかは分からなかった。


蒼なのか。


蓮なのか。


それとも。


私なのか。


パトカーの赤い光が橋を照らす。


救急隊員が駆け寄ってくる。


警察官が事情を聞き始める。


私は蒼を抱いたまま、その場に座り込んだ。


紬がゆっくり近づいてくる。


涙でぐしゃぐしゃの顔。


そして。


そっと蒼の頭を撫でた。


蒼は紬を見ると、小さく笑った。


「おねえちゃん」


紬の涙が止まらなくなる。


「……うん」


震える声で返事をする。


「もう、大丈夫だから」


その瞬間。


遠くで救急車のサイレンが鳴り続ける中、私たち家族は初めて同じ場所で抱き合った。


けれど──。


橋の反対側で警察官が男を取り囲んでいた。


あのフードの男だった。


男は抵抗せず、ゆっくり両手を上げる。


そして。


まっすぐ私を見て、静かに言った。


「これで終わりだと思わないでください」


私は蒼を抱きしめたまま男を見る。


男は苦しそうに笑った。


「全部を命令していた人は……」


そこで言葉を切る。


次の瞬間。


一台の黒い車が猛スピードで橋へ突っ込んできた。


警察官の怒号が飛ぶ。


「危ない!」


男は車を見た瞬間、青ざめて叫んだ。


「逃げて!! 本当の黒幕が来た!!」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ