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夫を奪ったアイドルの娘が、なぜか私を「ママ」と呼んだ。  作者: 熊猫ぱんだ


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橋の上

夜の道路を車が走る。


私は後部座席。


隣には紬。


警察の手配で来てくれたパトカーに乗っている。


サイレン。


赤色灯。


全部が現実離れしていた。


でも。


心臓だけは現実だった。


苦しいほど速い。


「ママ」


紬が小さく手を握る。


私は握り返した。


冷たい。


お互いに。


怖いんだ。


でも。


止まれない。


その時。


スマホが震える。


男から。


動画。


私はすぐ開いた。


暗い。


ブレている。


車の中から撮った映像。


遠く。


橋。


そして。


ガードレールの前。


女。


星乃ゆめ。


その腕の中。


小さな男の子。


蒼。


私は息を止める。


動画の中で。


蒼が泣いている。


声は聞こえない。


でも。


泣いているのが分かる。


そして。


次の瞬間。


蒼が顔を上げた。


画面に映る。


私は固まった。


似ている。


紬に。


そして。


私に。


目元が。


笑った時の口元が。


「……蒼」


声が漏れる。


隣で。


紬が泣き出した。


「蒼だ」


涙が止まらない。


「蒼……」


その時。


動画が大きく揺れる。


男が走っている。


息が荒い。


そして。


ゆめの叫び声。


『来ないで!!』


動画が切れた。


私は凍りつく。


直後。


電話。


男。


出る。


風の音。


すぐ近くで聞こえる。


『橋です』


荒い呼吸。


『もういます』


「蒼は!?」


『無事です』


少しだけ安心する。


でも。


次の言葉で凍りついた。


『ゆめさんがガードレール越えてます』


空気が止まる。


「……え?」


『蒼くん抱いたままです』


私は息ができなくなる。


その時。


パトカーが急ブレーキをかけた。


キキッ!!


前方。


橋。


見えた。


パトカー。


警察。


赤色灯。


そして。


ガードレールの向こうに立つ女。


星乃ゆめ。


本当にいた。


腕の中には蒼。


私は車が止まる前にドアを開けた。


「真白さん!」


警察が叫ぶ。


でも。


止まれない。


走る。


必死に。


橋の上。


風が強い。


ゆめが振り向く。


そして。


笑った。


涙だらけで。


壊れたみたいに。


「来た」


小さく。


嬉しそうに。


私は足を止める。


数メートル先。


蒼が泣いている。


小さな手を伸ばしている。


そして。


聞こえた。


か細い声。


泣きながら。


何度も。


何度も。


「ママ……」


その瞬間。


私の中で何かが切れた。


理屈じゃない。


証拠もない。


記憶もない。


でも。


分かった。


私は涙を流しながら。


蒼に向かって叫んだ。


「蒼!!」


蒼が顔を上げる。


そして。


泣きながら。


初めて。


はっきり私を見て言った。


「ママ!」

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