迎えに行こう
「ママ、蒼を迎えに行こう」
紬の言葉が胸に刺さった。
迎えに行く。
その言葉だけで涙が出そうになる。
本当にいるの?
本当に私の子なの?
何も分からない。
証拠もない。
でも。
もし本当だったら。
三年間。
たった一人で。
知らない場所で。
「……蒼」
私はその名前を口にする。
不思議だった。
初めて聞いたはずなのに。
胸の奥が痛い。
懐かしいような。
大切なものを思い出しそうな感覚。
その時。
玄関の向こう。
ゆめが叫んだ。
「行かないで!!」
泣き声。
でも。
もう演技じゃない。
本気だった。
「お願いだから!!」
ドン!!
ドアが揺れる。
「蒼だけはだめ!!」
私は凍りつく。
その言葉。
認めてる。
蒼がいることを。
隠していたことを。
全部。
その瞬間。
蓮の声。
震えていた。
「……本当にいるのか」
誰に聞いたのか。
自分に聞いたのか。
分からない。
すると。
ゆめが泣きながら笑った。
「いるよ」
静かな声。
怖いくらい穏やかだった。
「だって私が育てたもの」
鳥肌が立つ。
その時。
蓮が怒鳴った。
今までで一番大きな声。
「子どもは物じゃない!!」
静寂。
完全な静寂。
私は固まる。
ゆめも。
紬も。
みんな。
黙った。
そして。
ゆめが小さく笑った。
悲しそうに。
壊れたみたいに。
「今さら?」
空気が重くなる。
「あなたが言う?」
残酷だった。
蓮は何も言えない。
「奥さん捨てて」
「子どもまで捨てて」
「私選んだのに」
ゆめの声が震える。
怒り。
悲しみ。
執着。
全部混ざっていた。
「今さら正義の味方?」
私は目を閉じた。
誰も正義じゃない。
みんな壊れてる。
でも。
蒼だけは違う。
蒼は何も悪くない。
その時。
スマホが震えた。
男から。
画像。
私は開く。
そして。
息が止まった。
小さな男の子。
三歳くらい。
眠っている。
古いソファ。
抱き枕を抱えて。
無防備に。
そして。
胸に抱えているぬいぐるみ。
私は固まった。
そのぬいぐるみ。
知っている。
昔。
不妊治療の帰りに。
蓮と買った。
小さな青いくま。
「……うそ」
涙が溢れる。
そのぬいぐるみは。
誰にもあげてない。
しまったままだった。
その時。
紬が画像を見て泣き出した。
「蒼……」
震える声。
「蒼だ」
私はスマホを握りしめる。
男から最後のメッセージ。
『急いでください』
そして。
続けて。
『ゆめさんがいなくなりました』
空気が止まった。
「……え?」
次の瞬間。
玄関の向こうから。
蓮の絶叫が響いた。
「ゆめ!!!」




