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夫を奪ったアイドルの娘が、なぜか私を「ママ」と呼んだ。  作者: 熊猫ぱんだ


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私が育てた

「私が育てたんだから!!」


ゆめの叫び声が廊下に響く。


私は動けなかった。


頭が真っ白だった。


育てた?


誰を?


弟を?


その時。


紬が震える声で言った。


「……蒼」


「え?」


紬の目から涙が溢れる。


「弟の名前」


空気が止まる。


「蒼」


小さい声。


でも。


確信していた。


「そうだ」


私は胸が苦しくなる。


名前。


本当にいる。


想像じゃない。


夢じゃない。


紬は泣きながら続ける。


「いつも抱っこしてた」


「私が」


涙が止まらない。


「泣いたら歌ってた」


私は言葉を失う。


記憶。


本物だ。


細かすぎる。


その時。


ドアの向こう。


蓮の声。


震えていた。


「……蒼?」


初めて聞いた名前だったのだろう。


当然だ。


何も知らなかったんだから。


すると。


ゆめが笑った。


泣きながら。


壊れたみたいに。


「そうだよ」


優しい声。


でも。


ぞっとするほど怖い。


「私の子」


静寂。


そして。


自分で否定した。


「違う」


笑う。


「私の子じゃない」


鳥肌が立つ。


「でも私の子」


意味が分からない。


完全に壊れている。


その時。


蓮が掠れた声で言った。


「……誰の子なんだ」


長い沈黙。


誰も動かない。


そして。


ゆめが小さく笑った。


「知りたい?」


蓮は何も言わない。


でも。


沈黙が答えだった。


すると。


ゆめは嬉しそうに笑った。


まるで。


この瞬間を待っていたみたいに。


「あなたじゃない」


蓮の呼吸が止まる音が聞こえた。


「最初から」


少し間。


「一回も」


空気が重くなる。


「あなたの子じゃない」


私は目を閉じた。


残酷すぎる。


でも。


まだ終わらない。


その時。


電話の向こう。


男が静かに言った。


「真白さん」


私は我に返る。


「……何」


「残り三十分です」


心臓が跳ねる。


「蒼くんを移動させます」


空気が凍る。


「待って!」


思わず叫ぶ。


男は続ける。


「だから決めてください」


静かな声。


疲れた声。


「来ますか」


私は地図を見る。


倉庫。


郊外。


深夜。


危険。


でも。


もし本当なら。


そこに。


子どもがいる。


その時。


紬が私の手を握った。


震えている。


でも。


強く。


「行こう」


涙声。


「お願い」


私は紬を見る。


真剣な目。


助けを求める目。


その瞬間。


玄関の向こうで。


ゆめが絶叫した。


「行かないで!!」


ドン!!


ドアが揺れる。


「お願い!!」


泣き声。


叫び声。


狂気。


全部混ざっている。


そして。


今までで一番恐ろしい声で叫んだ。


「あの子が喋ったら全部終わるの!!」


空気が止まった。


私は凍りつく。


全部終わる?


何が?


すると。


紬が真っ青な顔で呟いた。


「……思い出した」


震える声。


涙が落ちる。


そして。


今まで隠されていた最後の記憶を口にした。


「蒼を産んだの、ママだよ」

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