弟
「弟がいる」
頭が真っ白になった。
私は紬を見つめる。
何も言えない。
言葉が出てこない。
「……弟?」
やっと絞り出した声。
紬は泣きながら頷いた。
「うん」
震える声。
「小さい」
「何歳?」
紬が目を閉じる。
思い出している。
苦しそうに。
そして。
「三歳くらい」
空気が止まった。
三歳。
もし本当なら。
計算が合う。
未来。
失踪。
全部。
私は呼吸が浅くなる。
「どうして今まで言わなかったの?」
紬の肩が震える。
「思い出せなかった」
涙が落ちる。
「怖くて」
私は言葉を失った。
その時。
電話の向こう。
男が静かに言う。
「場所を送ります」
私は即答した。
「信用できない」
男は少し黙った。
そして。
初めて感情のある声を出した。
疲れた声。
諦めたような声。
「信用しなくていい」
空気が変わる。
「でも」
少し間。
「私はもう終わりにしたい」
私は眉をひそめる。
何を?
その時。
ドアの向こう。
突然。
蓮の怒鳴り声。
「ゆめ!!」
ガシャーン!!
何かが割れる。
ゆめの笑い声。
そして。
泣き声。
混ざっている。
異常だった。
完全に。
壊れている。
男は静かに続ける。
「もう隠せない」
その声に。
なぜか嘘がない気がした。
「あなたの子どもは生きています」
私は動けない。
心臓が痛い。
そんなこと。
ありえる?
その時。
スマホに位置情報が届いた。
地図。
古い倉庫。
郊外。
私は画面を見つめる。
そして。
血の気が引いた。
紬が見た瞬間。
泣き出した。
「ここ」
震える声。
「ここだよ」
私は息を止める。
本当に?
本当にいるの?
その瞬間。
玄関の向こうで。
ゆめが絶叫した。
今までで一番大きな声。
壊れたみたいに。
「行かないでぇぇぇ!!」
空気が凍る。
私は固まる。
ゆめ。
どうして。
そんなに。
必死なの?
すると。
ゆめが泣きながら叫ぶ。
「返さない!!」
鳥肌が立つ。
返さない?
何を?
そして。
次の瞬間。
今まで隠していた本音が溢れるみたいに。
ゆめが叫んだ。
「あの子は私のなの!!」
時間が止まった。
私は呼吸を忘れる。
紬も凍りつく。
蓮も。
何も言わない。
静寂。
そして。
ゆめが泣きながら笑う。
狂ったみたいに。
「だって私が育てたんだから!!」




