誰の子なの?
「パパの子じゃない」
空気が止まった。
私は紬を見た。
涙でぐしゃぐしゃの顔。
でも。
その目は真剣だった。
「……え?」
声が掠れる。
「どういうこと?」
紬が唇を噛む。
苦しそう。
でも。
思い出したんだ。
全部。
少しずつ。
「ゆめママ」
震える声。
「妊娠してた」
私は息を止める。
じゃあ。
嘘じゃなかった?
でも。
病院では妊娠してなかった。
蓮もそう言っていた。
矛盾してる。
すると紬が首を振った。
「時期が違う」
空気が変わる。
「え?」
「最初は嘘」
小さい声。
「でも、そのあと本当に妊娠した」
私は凍りついた。
「……誰の子?」
紬の顔から血の気が消える。
聞きたくない。
そんな顔。
そして。
震える声で言った。
「分かんない」
「え?」
「でも」
長い沈黙。
「パパじゃない」
心臓が嫌な音を立てる。
その時。
玄関の向こう。
ゆめの声。
さっきまでと違う。
静かだった。
「紬ちゃん」
私は凍りつく。
紬も固まる。
ゆめは続けた。
「余計なこと言わないで」
鳥肌が立つ。
聞こえてる。
全部。
「あなた、昔からおしゃべりだったよね」
紬の呼吸が止まりそうになる。
震えている。
「……っ」
私は反射的に紬を庇う。
その瞬間。
ゆめが笑った。
小さい。
でも。
今までで一番冷たい笑い。
「やっぱり生きてたんだ」
空気が凍る。
やっぱり。
知ってる。
最初から。
「真白さん」
ゆめの声。
穏やか。
優しい。
でも。
狂ってる。
「その子ね」
少し間。
「私のこと全部知ってるんですよ」
私は息を止める。
「だから困るんです」
その時。
蓮の声。
怒鳴る。
「ゆめ!!」
初めてだった。
蓮が。
ゆめに怒鳴った。
「もうやめろ!」
静寂。
数秒。
誰も喋らない。
そして。
ゆめが笑った。
「やっと気づいた?」
鳥肌が立つ。
「蓮さん」
優しい声。
でも。
残酷だった。
「あなた、本当に馬鹿」
私は凍りつく。
その瞬間。
何かが倒れる音。
ガシャーン!!
蓮の怒鳴り声。
ゆめの笑い声。
混乱。
そして。
次の瞬間。
ゆめが叫んだ。
「だって最初から、あなたなんて好きじゃないもの!!」
空気が止まった。
私は言葉を失う。
ドアの向こう。
蓮も。
黙っていた。
ゆめは止まらない。
今まで溜め込んでいたものが、一気に溢れ出すみたいに。
「利用しただけ!」
「結婚したかっただけ!」
「子ども欲しかっただけ!」
呼吸が苦しくなる。
そして。
最後に。
ゆめが笑った。
泣きながら。
壊れたみたいに。
「だって、本当に好きだったのは別の人だもの」
その瞬間。
隣で。
紬が震える声で言った。
「……その人」
私は振り向く。
紬の顔は真っ青だった。
そして。
小さく。
信じられない言葉を口にした。
「さっきの男だよ」




