開けてください
──ピンポーン。
──ピンポーン。
──ピンポーン。
チャイムが鳴り続ける。
深夜。
静まり返ったマンション。
異常だった。
私は玄関を見つめる。
心臓が速い。
隣では紬が震えていた。
「来た……」
小さな声。
泣きそうな顔。
私は反射的に紬の肩を抱く。
「大丈夫」
そう言った瞬間だった。
ドアの向こう。
蓮の声。
「真白!」
焦っている。
今までと違う。
怒鳴り声じゃない。
本気で焦っている声。
「開けろ!」
「ゆめがやばい!」
私は眉をひそめた。
やばい?
何が?
その時。
別の声。
ゆめ。
泣いているような声。
でも。
どこか笑っているようにも聞こえる。
「開けてください」
小さい声。
「話したいだけなんです」
ぞっとする。
今さら?
ここまでして?
「ママ」
紬が服を掴む。
震えている。
「絶対だめ」
私は頷く。
開けるつもりはない。
その時。
スマホが震えた。
蓮から。
動画。
私は恐る恐る開く。
そして。
息が止まった。
ゆめ。
ホテルの部屋。
一人。
机の上には大量の薬。
そして。
ゆめ本人が話している。
撮影日は今日。
泣きながら。
でも。
笑顔で。
「もし私に何かあったら」
鳥肌が立つ。
「全部、神崎真白さんのせいです」
私は凍りついた。
動画は続く。
「赤ちゃんを否定されました」
「脅されました」
「毎日苦しかったです」
吐き気がした。
全部嘘。
全部。
その時。
動画の最後。
ゆめがカメラに近づく。
そして。
小さく笑った。
「これで終わり」
映像が切れる。
私は言葉を失う。
完全に準備していた。
最初から。
何か起きた時のために。
その時。
ドアの向こう。
蓮が叫んだ。
「真白!!」
ドン!!
玄関が揺れる。
「頼むから開けろ!!」
「ゆめが薬飲んだ!!」
空気が止まった。
私は動けない。
本当?
嘘?
演技?
分からない。
その時。
紬が真っ青な顔で首を振った。
「飲んでない」
「え?」
「未来でも同じ」
震える声。
「飲むフリ」
鳥肌が立つ。
「救急車呼ぶ」
「被害者になる」
「ママを犯人にする」
私は息を呑む。
全部。
計画。
でも。
もし違ったら?
もし本当に飲んでいたら?
その瞬間。
ドアの向こうから。
ゆめの笑い声が聞こえた。
小さい。
でも。
はっきり。
「ふふっ」
私は凍りつく。
そして。
ゆめが囁いた。
「どっちでも勝ちなんですよ」
空気が止まる。
「……え?」
「私が死んだら」
穏やかな声。
「あなたが人殺し」
少し間。
「死ななかったら」
笑う。
「被害者は私」
鳥肌が立った。
異常だ。
完全に。
壊れてる。
その時。
紬が突然、私の腕を掴んだ。
顔色が真っ白だった。
唇が震えている。
そして。
今までで一番恐ろしい言葉を口にした。
「ママ……」
涙が溢れる。
震える声。
「ゆめママも、妊娠してる」
私は固まった。
「……え?」
紬は泣きながら首を振る。
「嘘じゃない」
「でも」
呼吸が乱れる。
そして。
小さく言った。
「パパの子じゃない」




