あなたが妊娠してる
「あなたですよ、真白さん」
時間が止まった。
私は男を見る。
モニター越し。
フードの奥。
感情のない顔。
でも。
冗談を言ってる顔じゃない。
「……は?」
声が掠れる。
何言ってるの?
私が?
妊娠?
ありえない。
だって。
私は。
何年も。
不妊治療して。
できなかった。
病院でも言われた。
難しいって。
可能性低いって。
なのに?
「嘘……」
思わず漏れる。
その瞬間。
隣で。
紬が、ぴたりと止まった。
真っ青な顔。
でも。
どこか、何かを思い出した顔。
「……ママ」
小さい声。
震えている。
「未来で」
私は息を止める。
「え?」
紬の目に涙が溜まる。
「ママ、倒れたあと」
少し間。
「病院、行った」
胸がざわつく。
病院。
倒れたあと。
「それで?」
紬が唇を噛む。
苦しそうに。
でも。
はっきり言った。
「先生、赤ちゃんいるって言ってた」
空気が止まった。
私は言葉を失う。
「……え?」
「でも」
紬の顔が歪む。
泣きそうだった。
「ゆめママ、すごく怒ってた」
背筋が冷える。
怒る?
なんで?
その時。
モニターの向こう。
男が静かに言う。
「やっと繋がったか」
私は男を睨む。
「何を知ってるの」
男は少し黙った。
そして。
低い声。
「あなた、最近体調悪かったでしょ」
息が止まる。
心臓。
息苦しさ。
汗。
ぼーっとする。
──最近。
私は無意識に、お腹へ視線を落とした。
まさか。
でも。
そんな。
「ゆめさん」
男が淡々と続ける。
「あなたが妊娠したって知って、壊れたんですよ」
空気が凍る。
「……何言ってるの?」
意味が分からない。
でも。
紬が、小さく震えながら言った。
「思い出した」
涙声。
「ゆめママ、言ってた」
少し間。
「“なんであの女なの”って」
「“なんで私じゃないの”って」
鳥肌が立つ。
じゃあ。
妊娠は嘘?
病院へ呼び出し。
エコー。
全部。
私を壊すため?
そして。
自分が妊婦の立場を奪うため?
その瞬間。
──ピンポーン。
強いインターホン。
続けて声。
「警察です!」
男が小さく舌打ちした。
玄関前の女が慌てる。
「行きます」
でも。
男は動かなかった。
最後に。
私を見た。
まっすぐ。
そして。
静かな声で言った。
「病院、行ってください」
少し間。
「早くしないと、また消されます」
私は凍りつく。
「……また?」
男は答えなかった。
ただ。
初めて少しだけ。
同情みたいな顔をした。
そして。
小さく言った。
「前も、消されたから」
次の瞬間。
足音。
警察。
男は廊下の奥へ消えた。
でも。
最後に残った言葉だけが。
頭から離れなかった。
──前も、消された。
紬が、震える声で私を見る。
涙目。
小さな声。
「ママ……」
長い沈黙。
そして。
今までで一番怖そうな顔で言った。
「私、多分……弟か妹、いた」




