選べって何?
「その子を守るか──真実を知るか」
空気が止まった。
私はモニターを見る。
男。
感情のない顔。
静かな声。
でも。
異常なほど怖かった。
まるで。
本当に選ばせる気みたいな。
「……何言ってるの?」
声が掠れる。
男は少しだけ首を傾げた。
「簡単です」
低い声。
落ち着いている。
怖いくらい。
「紬ちゃんを渡せば」
紬がびくっと震える。
私の服をぎゅっと掴む。
「全部話します」
心臓が嫌な音を立てる。
「何を?」
男は少し黙った。
そして。
静かに言った。
「星乃ゆめのこと」
空気が変わる。
ゆめ。
また。
全部、ゆめに繋がる。
「あなたが知りたいこと」
男が続ける。
「妊娠」
「失踪」
「あなたの夫」
「全部」
私は息を止めた。
真実。
欲しい。
知りたい。
でも。
隣を見る。
紬。
真っ青な顔。
今にも泣きそう。
小さく首を振ってる。
「だめ……」
震える声。
「信じちゃだめ」
男は聞こえていたのか、小さく笑った。
「ほら」
淡々とした声。
「その子、いつもそう」
鳥肌が立つ。
“いつも”。
知ってる言い方。
「あなた、本当に紬を知ってるの?」
私が言うと。
男は数秒黙った。
そして。
静かに言った。
「三年」
呼吸が止まる。
「……え?」
「三年間、一緒にいました」
紬の呼吸が乱れる。
「嘘!」
涙声。
男は表情を変えない。
「薬も飲ませた」
「学校も行かせた」
「死んだことにもした」
私は凍りついた。
何を。
普通みたいに。
話してるの。
「……何のため?」
男は少し考えるように黙った。
そして。
ぽつり。
「ゆめさんのためです」
怒りで頭が熱くなる。
また。
ゆめ。
「理由は?」
男の口元が少しだけ歪んだ。
笑った?
そして。
低い声。
「似てたからですよ」
空気が凍る。
「誰に?」
男の視線が、ゆっくり私へ向く。
モニター越しなのに。
ぞっとした。
そして。
はっきり言った。
「あなたに」
私は言葉を失った。
隣で。
紬が、小さく震えながら呟く。
「……言ってた」
涙声。
「ゆめママ」
少し間。
「“この子見るとイライラする”って」
胸が締め付けられる。
似てるから?
私に?
だから消した?
子どもを?
その時。
男がまた口を開いた。
「あと五分です」
低い声。
「警察が来る前に決めてください」
「決めなかったら?」
私は睨む。
怖い。
でも。
怒りの方が勝っていた。
男は少しだけ笑った。
初めて。
はっきり。
「じゃあ」
静かな声。
でも。
ぞっとするほど冷たい。
「真白さん、次はあなたが消えます」
その瞬間。
紬が、突然強く私に抱きついた。
震える声。
泣きながら。
「ママ……」
小さく。
でも。
はっきり言った。
「私、全部思い出した」




