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夫を奪ったアイドルの娘が、なぜか私を「ママ」と呼んだ。  作者: 熊猫ぱんだ


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迎えに来た男

「迎えに来た人」


紬の声が震えていた。


目を見開いたまま、モニターから視線を離せない。


私は反射的に紬を後ろへ隠した。


モニター。


廊下の奥。


フードを深く被った男。


動かない。


ただ、立っている。


異様だった。


何もしてないのに。


存在だけで怖い。


「……誰?」


小さく呟く。


でも。


紬は首を横に振った。


「顔、知らない」


震える声。


「でも……」


涙が落ちる。


「この人、いた」


「逃げた時?」


紬が頷く。


「追いかけてきた」


空気が止まる。


追いかけてきた。


つまり。


監禁。


連れ戻し。


現実味が一気に増す。


その時。


玄関の前の女が、またドアを叩く。


コン、コン。


さっきより少し強い。


「紬ちゃん」


低い声。


優しさが消えてる。


「もう遊び終わり」


鳥肌が立つ。


遊び?


何それ。


その瞬間。


廊下の奥の男が、一歩前に出た。


紬が息を呑む。


私の服を強く掴む。


「……いや」


小さい声。


呼吸が乱れる。


パニックになりそうだった。


私はすぐ抱きしめる。


「大丈夫」


言いながら、自分も震えていた。


すると。


スマホが震える。


通知。


星乃ゆめ


私は嫌な予感しかしなかった。


開く。


短い文章。


『最後のチャンスです』


次。


『その子、返して』


さらに。


『本当に知らないんですね』


私は眉をひそめる。


知らない?


何を?


その直後。


最後の一文。


『その子、“あなたの娘”じゃないですよ』


心臓が止まりそうになる。


私は画面を見つめた。


娘じゃない?


何それ。


でも。


次の瞬間。


紬が、小さく震えながら言った。


「……違う」


「え?」


紬の顔が真っ青だった。


唇が震える。


涙が止まらない。


「ママ」


声が掠れている。


今にも壊れそう。


そして。


ぽつり。


「私……」


長い沈黙。


「未来の子じゃないかもしれない」


空気が止まった。


「……え?」


意味が分からない。


だって。


未来から来たって。


私の娘だって。


それなのに?


紬は頭を押さえる。


苦しそう。


思い出してる。


「ごめん……」


涙声。


「分かんなくなってきた」


その時。


──ガチャ。


玄関。


嫌な音。


私は凍りつく。


チェーン。


ドア。


少し動いた。


女じゃない。


奥の男。


いつの間にか近くにいた。


そして。


低い声。


初めて聞く声。


「紬」


空気が凍る。


紬が、小さく悲鳴を飲み込む。


男の声は静かだった。


でも。


異様に冷たい。


「もう終わりにしよう」


次の瞬間。


紬が、震える声で言った。


「……だめ」


涙を流しながら。


唇を震わせる。


そして。


今までで一番小さい声で言った。


「この人……」


長い沈黙。


「私を殺そうとした人」

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