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夫を奪ったアイドルの娘が、なぜか私を「ママ」と呼んだ。  作者: 熊猫ぱんだ


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本当のママ

「……私の本当のママ知ってる」


空気が止まった。


私は紬を見る。


顔色が真っ白だった。


小さな体が震えている。


涙が止まらない。


でも。


今の言葉は、冗談でも混乱でもなかった。


「……本当のママ?」


私の声が掠れる。


紬が小さく頷く。


「思い出したの」


ぽつり。


震える声。


「少しだけ」


私は息を止める。


本当の母親。


そういえば。


聞いたことがなかった。


未来の娘。


そう名乗っていた。


でも。


誰の子なのか。


どう生まれたのか。


肝心なことを。


何も。


「紬」


私はゆっくり聞く。


「蓮の子じゃないの?」


紬が少し迷う。


そして。


小さく頷いた。


「……多分、パパの子」


胸が少しだけざわつく。


じゃあ。


未来で私は?


蓮とゆめの間に?


違う。


顔が似てる。


紬は私に似てる。


じゃあ──。


その時。


コン、コン。


玄関。


女の声。


少し苛立っていた。


「紬ちゃん」


優しい声を作ってる。


でも。


冷たい。


「面倒にしないで」


紬がびくっと震える。


「もう時間ないの」


時間。


またその言葉。


私は眉をひそめる。


「何の時間?」


当然、返事はない。


でも。


その瞬間。


紬が急に顔を上げた。


「……ゆめママ」


目が揺れている。


思い出してる。


何かを。


「ずっと言ってた」


小さい声。


「“あの人に見つかる前に”って」


背筋が冷えた。


あの人?


誰?


「本当のママ?」


紬が、ゆっくり首を横に振る。


そして。


震える声で言った。


「違う」


長い沈黙。


「……男の人」


空気が変わる。


男?


私は息を呑む。


「誰?」


紬が額を押さえる。


苦しそうだった。


「名前、分かんない」


「でも」


唇が震える。


「ゆめママ、すごく怖がってた」


怖がる?


あのゆめが?


あんな、人を操るみたいな女が?


その時だった。


──ドン。


今までと違う音。


私はモニターを見る。


凍りついた。


女が。


一人じゃない。


廊下の奥。


フードを被った男。


立ってる。


顔は見えない。


でも。


じっと。


こっちを見ていた。


紬が、画面を見た瞬間。


呼吸が止まるような音を出した。


「……っ」


顔から血の気が消える。


震える指。


モニターを指差して。


今にも泣きそうな声で言った。


「……この人」


私は息を止める。


「知ってるの?」


紬の唇が震える。


そして。


涙を零しながら。


小さく言った。


「私、逃げた日……」


長い沈黙。


「迎えに来た人」

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