いた場所
「私がいた場所」
紬の声は震えていた。
目が離せない。
スマホ画面。
暗い部屋。
古いベッド。
黄ばんだ壁。
窓のない狭い空間。
そして。
後ろ姿の女の子。
十歳くらい。
──紬に似てる。
私は息を止めた。
「……本当に?」
紬が小さく頷く。
涙がぽろっと落ちた。
「ここ……」
声が掠れている。
「ずっといた」
背筋が冷える。
ずっと?
監禁?
そんな言葉が頭をよぎる。
でも。
現実感がなさすぎる。
未来の話。
失踪した子。
知らない部屋。
知らない番号。
全部、悪夢みたいだった。
「誰から?」
私は震える指で番号を見る。
非通知ではない。
でも知らない。
その時。
また通知。
私は肩を跳ねさせる。
新しいメッセージ。
『迎えに来ますか?』
数秒後。
もう一通。
『ただし、一人で』
血の気が引いた。
怖い。
嫌な予感しかしない。
紬が急に首を振る。
「だめ!」
強い声。
今までで一番必死だった。
「絶対だめ!」
「でも……」
「罠」
即答だった。
紬の顔が真っ青。
小さな手が震えてる。
「未来でもあった」
空気が止まる。
「未来?」
紬が頷く。
「ママ、私探してた」
「……」
「その時、変な連絡いっぱい来た」
「行ったの?」
紬の顔が曇る。
そして。
小さく頷いた。
「一回だけ」
心臓が嫌な音を立てる。
「そしたら?」
紬が唇を噛んだ。
言いたくなさそう。
でも。
ぽつりと言った。
「……パパにバレた」
空気が止まる。
「蓮に?」
「うん」
小さい声。
「“まだ諦めてないの?”って怒られた」
胸が締め付けられる。
まだ諦めてない?
自分の子なのに?
失踪した子なのに?
何それ。
「ママ、泣いてた」
紬が俯く。
「でも、パパ」
少し間。
「“もう死んだんだよ”って」
怒りで頭が熱くなる。
最低。
最低すぎる。
その時。
スマホがまた震えた。
新着。
画像。
今度は近い。
部屋の隅。
古い机。
その上に置かれたノート。
私は息を止めた。
表紙。
ひらがなで書いてある。
『つむぎ』
紬が凍りついた。
「……私の」
小さい声。
涙が落ちる。
「これ、私のノート」
空気が変わる。
悪戯じゃない。
本物。
少なくとも。
“誰か”は紬を知ってる。
その時。
また通知。
最後のメッセージ。
『ゆめさんに消される前に』
私は凍りついた。
──消される?
どういう意味?
隣で。
紬が、小さく震えながら呟いた。
「……思い出した」
「え?」
紬の顔が真っ白だった。
唇が震える。
涙が止まらない。
そして。
今までで一番小さな声で言った。
「私……」
長い沈黙。
「逃げたんだ」




