知っている顔
「なんで、その子がいるの……?」
空気が止まった。
私は反射的に紬を後ろへ隠す。
「……え?」
ゆめの顔が真っ青だった。
今までの演技っぽい涙じゃない。
本気で動揺してる顔。
呼吸が浅い。
目を見開いている。
まるで。
──ありえないものを見た顔。
「ゆめ?」
蓮が怪訝そうに見る。
でも。
ゆめは聞こえていないみたいだった。
視線は、紬に固定されたまま。
警察官も少し空気の変化を感じたのか、顔を見合わせる。
「知り合いですか?」
若い警察官が聞く。
ゆめが、はっとした。
一瞬で顔を作り直す。
でも。
遅かった。
さっきの顔。
完全に“知っている顔”だった。
「……ち、違います」
少し声が裏返る。
「ただ……」
言葉が詰まる。
初めて。
ゆめが焦ってる。
紬が、私の服をぎゅっと掴んだ。
震えていた。
顔色が悪い。
怯えてる。
でも。
どこか怒っているようにも見えた。
「……ゆめママ」
小さい声。
でも。
確かに聞こえた。
空気が凍る。
蓮が顔を上げる。
「え?」
ゆめの顔から、一瞬で血の気が引いた。
警察官も眉をひそめる。
私は紬を見る。
「紬?」
紬は唇を噛んだ。
言っちゃいけない。
でも。
我慢できなかったみたいに。
小さな声で言った。
「……また、嘘ついてる」
ゆめが、一歩後ろへ下がる。
「……っ」
今までで一番、動揺していた。
「何その子」
蓮が苛立った声を出す。
「親戚?」
私は答えられない。
答えようがない。
未来から来た娘。
そんな話、誰が信じるの。
でも。
ゆめの反応だけが異常だった。
まるで。
本当に知ってるみたいな。
その時。
年配の警察官が、少し低い声で言った。
「とりあえず、今日は解散してください」
空気が変わる。
「深夜ですし、これ以上はトラブルになります」
蓮が舌打ちする。
「でも」
「ご主人」
警察官の声が少し厳しくなる。
「ドアを強く叩いていたのは事実ですよね?」
蓮が黙る。
その横。
ゆめはまだ紬を見ていた。
怯えてる。
いや。
違う。
──恐れてる。
そして。
小さな声。
誰にも聞こえないくらい。
でも。
私は確かに聞いた。
「……ありえない」
その瞬間。
紬が、急に私の手を強く握った。
震える声。
小さい声。
でも。
今までで一番怖そうだった。
「ママ……」
「え?」
紬が唇を震わせる。
そして。
泣きそうな顔で言った。
「未来、変わっちゃった」
「……どういうこと?」
紬の視線は、ゆめから離れない。
「ゆめママ……」
少し間。
「私のこと、覚えてる」




