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夫を奪ったアイドルの娘が、なぜか私を「ママ」と呼んだ。  作者: 熊猫ぱんだ


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19/85

鍵の音

──ガチャ。


玄関の鍵が回る音。


心臓が止まりそうになった。


私は凍りつく。


……嘘。


なんで?


蓮、鍵持ってる。


当たり前だ。


ここはまだ、私たちの家なんだから。


でも。


今は違う。


怖い。


怖すぎる。


「……っ」


紬の顔が一瞬で青ざめた。


震えている。


「来た……」


小さな声。


怯え切った顔。


私は反射的に紬を後ろへ隠した。


ガチャ。


もう一度。


ドアノブが回る。


でも。


開かない。


──チェーン。


さっき、私がかけた。


玄関の向こうで、小さく舌打ちが聞こえた。


そして。


蓮の声。


「真白」


低い声。


苛立っている。


「開けろ」


私は動けなかった。


怖い。


でも。


何より。


この時間に突然来るのが怖かった。


「真白、聞こえてるよな?」


ドア越し。


すぐそこ。


紬が私の服を掴む。


震えている。


「未来と同じ……」


私は息を呑む。


同じ?


でも。


未来と違うことも多い。


まだ変えられる。


そう思いたかった。


「開けない」


自分でも驚くくらい、小さな声だった。


でも。


ちゃんと届いた。


数秒、沈黙。


そのあと。


蓮の声が少し強くなる。


「話がある」


「明日病院来ないって何?」


「ゆめ、かなり不安定なんだよ」


また。


またそれ。


ゆめ。


ゆめ。


ゆめ。


私は唇を噛んだ。


「私だって不安定だよ」


静かな声。


でも。


自分でも驚くくらい冷たかった。


玄関の向こうが静かになる。


「今日だけで人生壊れた」


少し間。


「なのに、なんで私ばっかり我慢しなきゃいけないの?」


沈黙。


でも。


次に聞こえたのは。


女の声だった。


小さくて。


震えていて。


でも。


どこか作ったような声。


「……奥さん」


星乃ゆめ。


私は息を止めた。


「私、謝りたいだけなんです」


またそれ。


謝罪。


被害者。


健気。


全部同じ。


「赤ちゃんも不安定で……」


ドア越し。


少し鼻をすする音。


泣いてる演技。


でも。


もう分かる。


私は騙されない。


その時。


紬が急に私の服を引っ張った。


「だめ」


小さな声。


でも必死。


「開けたらだめ」


「……何があるの?」


紬の顔が強張る。


言いたくなさそうだった。


でも。


震える声で言った。


「パパ……怒る」


背筋が冷えた。


「怒る?」


紬は頷いた。


「未来で」


少し間。


「ママ、初めて押された」


空気が止まった。


私は何も言えなかった。


蓮が?


私を?


ありえない。


でも。


今日の蓮。


あの冷たい目。


知らない人みたいだった。


その時。


ドアの向こうから。


蓮の低い声。


「真白」


さっきより低い。


苛立ちが混ざってる。


「開けろって言ってるだろ」


ドン。


玄関が揺れた。


紬がびくっと震える。


私は反射的に抱き寄せる。


「大丈夫」


言いながら、自分が震えていた。


すると。


ゆめの声。


小さい。


でも。


なぜか少し笑ってるように聞こえた。


「蓮さん、もう帰りましょう……」


弱々しい声。


守りたくなる声。


でも。


次の瞬間。


ドア越しに、聞こえた。


小さすぎて。


蓮には聞こえないくらい。


でも。


確かに。


「逃げられると思わないで」


私の背筋が凍る。


そして。


──ドンッ!!


今までで一番強い音。


玄関が大きく揺れた。


蓮の声。


苛立ちを隠さない声。


「真白!!」


紬が、泣きそうな顔で私を見る。


震える唇。


「……始まった」


「え?」


紬の目に涙が浮かぶ。


そして。


小さく言った。


「未来で、ママが警察呼べなかった理由」

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