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夫を奪ったアイドルの娘が、なぜか私を「ママ」と呼んだ。  作者: 熊猫ぱんだ


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18/85

全部バラします

『明日、病院来ないなら──全部バラします』


私は画面を見つめた。


指先が冷たい。


何を?


何をバラすの?


私は何もしてない。


なのに。


胸がざわつく。


嫌な予感しかしない。


その直後。


また通知。


『奥さん、不妊治療してましたよね?』


呼吸が止まる。


心臓が嫌な音を立てた。


どうして。


それを。


病院。


通院履歴。


誰にも言ってないこと。


蓮と、親友一人だけ。


なのに。


次。


『ネットって怖いですよね』


全身が冷えた。


脅し。


完全に。


私はスマホを握りしめる。


怒りと恐怖で震えていた。


「最低……」


紬が隣で顔を強張らせている。


「未来にない」


小さな声。


震えている。


「こんなの、なかった」


未来が変わってる。


しかも。


悪い方向に。


「……全部バラすって何?」


私は呟く。


すると。


紬の顔が曇った。


「たぶん」


少し間。


「ママを悪者にする」


「どうやって?」


紬が俯く。


言いにくそうに。


でも。


ぽつりと言った。


「パパとのLINEとか」


私は眉をひそめる。


「LINE?」


「切り取るの」


紬が続ける。


「未来で、“奥さん怖い”って証拠いっぱい出てきた」


背筋が冷える。


「証拠?」


「でも、全部変だった」


紬の目が揺れる。


「怒ってるところだけ」


「泣いてるところだけ」


「ママが悪く見えるところだけ」


編集。


切り取り。


誘導。


ぞっとする。


最初から計画してる。


謝罪。


病院。


録音。


炎上。


全部。


一本の線みたいに繋がってる。


「……病院に行かせたい理由」


私は小さく呟く。


「証拠作り?」


紬が頷いた。


「うん」


でも。


少し迷ったあと。


小さく言った。


「あと、もう一個ある」


私は顔を上げる。


「何?」


紬が唇を噛む。


そして。


震える声で言った。


「ゆめママ、多分……」


長い沈黙。


「ママに見せたいんだと思う」


「何を?」


紬の顔が苦しそうになる。


「“勝った”って」


空気が止まった。


私は何も言えなかった。


勝った。


私に。


不妊の妻に。


夫を奪って。


妊娠して。


見せつけたい。


壊したい。


そういうこと?


その時。


着信。



私は数秒迷う。


でも出た。


「……何」


蓮の声は低かった。


怒っている。


『真白、お前ゆめに何言った?』


「は?」


『泣いてるんだけど』


またそれ。


また私のせい。


「私、何もしてない」


『病院来ないって言ったんだろ?』


私は黙る。


蓮が苛立ったように続ける。


『ゆめ、明日不安で眠れないって』


『お前さ、少しは人の気持ち考えろよ』


──人の気持ち。


その言葉で、何かが切れた。


「じゃあ私の気持ちは?」


沈黙。


「五年、一緒にいたよね?」


「不妊治療もしたよね?」


「私、どれだけ泣いたと思ってるの?」


声が震える。


でも止まらない。


「その相手を妊娠させて」


「家に連れてきて」


「脅されて」


「私が悪いの?」


長い沈黙。


そして。


蓮が、小さく言った。


『……もう戻れないんだよ』


胸が痛む。


でも。


次の瞬間。


妙な違和感。


蓮の後ろ。


誰かの声。


小さい。


女の声。


笑ってる?


私は息を止めた。


そして。


はっきり聞こえた。


蓮に聞こえないくらい小さな声。


でも確かに。


「ちゃんと言って」


星乃ゆめ。


指示してる。


私は凍りついた。


その瞬間。


紬が、急に立ち上がった。


顔色が変わっている。


真っ青。


「……来る」


「え?」


紬の声が震える。


泣きそうだった。


「未来で、病院行かなかった時」


数秒、間。


唇が震える。


「パパ、家に来た」


そして。


──ガチャ。


玄関の鍵が回る音がした。

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