全部バラします
『明日、病院来ないなら──全部バラします』
私は画面を見つめた。
指先が冷たい。
何を?
何をバラすの?
私は何もしてない。
なのに。
胸がざわつく。
嫌な予感しかしない。
その直後。
また通知。
『奥さん、不妊治療してましたよね?』
呼吸が止まる。
心臓が嫌な音を立てた。
どうして。
それを。
病院。
通院履歴。
誰にも言ってないこと。
蓮と、親友一人だけ。
なのに。
次。
『ネットって怖いですよね』
全身が冷えた。
脅し。
完全に。
私はスマホを握りしめる。
怒りと恐怖で震えていた。
「最低……」
紬が隣で顔を強張らせている。
「未来にない」
小さな声。
震えている。
「こんなの、なかった」
未来が変わってる。
しかも。
悪い方向に。
「……全部バラすって何?」
私は呟く。
すると。
紬の顔が曇った。
「たぶん」
少し間。
「ママを悪者にする」
「どうやって?」
紬が俯く。
言いにくそうに。
でも。
ぽつりと言った。
「パパとのLINEとか」
私は眉をひそめる。
「LINE?」
「切り取るの」
紬が続ける。
「未来で、“奥さん怖い”って証拠いっぱい出てきた」
背筋が冷える。
「証拠?」
「でも、全部変だった」
紬の目が揺れる。
「怒ってるところだけ」
「泣いてるところだけ」
「ママが悪く見えるところだけ」
編集。
切り取り。
誘導。
ぞっとする。
最初から計画してる。
謝罪。
病院。
録音。
炎上。
全部。
一本の線みたいに繋がってる。
「……病院に行かせたい理由」
私は小さく呟く。
「証拠作り?」
紬が頷いた。
「うん」
でも。
少し迷ったあと。
小さく言った。
「あと、もう一個ある」
私は顔を上げる。
「何?」
紬が唇を噛む。
そして。
震える声で言った。
「ゆめママ、多分……」
長い沈黙。
「ママに見せたいんだと思う」
「何を?」
紬の顔が苦しそうになる。
「“勝った”って」
空気が止まった。
私は何も言えなかった。
勝った。
私に。
不妊の妻に。
夫を奪って。
妊娠して。
見せつけたい。
壊したい。
そういうこと?
その時。
着信。
蓮
私は数秒迷う。
でも出た。
「……何」
蓮の声は低かった。
怒っている。
『真白、お前ゆめに何言った?』
「は?」
『泣いてるんだけど』
またそれ。
また私のせい。
「私、何もしてない」
『病院来ないって言ったんだろ?』
私は黙る。
蓮が苛立ったように続ける。
『ゆめ、明日不安で眠れないって』
『お前さ、少しは人の気持ち考えろよ』
──人の気持ち。
その言葉で、何かが切れた。
「じゃあ私の気持ちは?」
沈黙。
「五年、一緒にいたよね?」
「不妊治療もしたよね?」
「私、どれだけ泣いたと思ってるの?」
声が震える。
でも止まらない。
「その相手を妊娠させて」
「家に連れてきて」
「脅されて」
「私が悪いの?」
長い沈黙。
そして。
蓮が、小さく言った。
『……もう戻れないんだよ』
胸が痛む。
でも。
次の瞬間。
妙な違和感。
蓮の後ろ。
誰かの声。
小さい。
女の声。
笑ってる?
私は息を止めた。
そして。
はっきり聞こえた。
蓮に聞こえないくらい小さな声。
でも確かに。
「ちゃんと言って」
星乃ゆめ。
指示してる。
私は凍りついた。
その瞬間。
紬が、急に立ち上がった。
顔色が変わっている。
真っ青。
「……来る」
「え?」
紬の声が震える。
泣きそうだった。
「未来で、病院行かなかった時」
数秒、間。
唇が震える。
「パパ、家に来た」
そして。
──ガチャ。
玄関の鍵が回る音がした。




