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夫を奪ったアイドルの娘が、なぜか私を「ママ」と呼んだ。  作者: 熊猫ぱんだ


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17/85

壊れる日

「未来で……ママが一番壊れた日」


紬の声は震えていた。


顔色が悪い。


今にも泣きそうだった。


──ガタン。


また音がする。


玄関。


何かがぶつかるような音。


私は息を止めた。


怖い。


でも、確認しないわけにもいかない。


「待ってて」


小声で言う。


紬が慌てて首を振った。


「だめ!」


服を強く掴まれる。


「お願い、一人で行かないで」


その顔が、本当に怯えていて。


私は少しだけ迷った。


でも。


玄関の前に誰かいるなら。


放置も危ない。


「一緒に来て」


紬は少し迷って、頷いた。


私たちは静かに廊下を歩く。


部屋の電気は消えたまま。


足音を立てないように。


息を潜めて。


ドアスコープを覗く。


──誰もいない。


でも。


玄関の前に、何かある。


私は眉をひそめた。


小さな箱。


白い箱。


ケーキ箱みたいな。


嫌な予感しかしない。


「開けちゃだめ」


紬が小さく言う。


私は喉を鳴らした。


怖い。


でも。


このままも無理だ。


そっとチェーンをかけたまま、ドアを少し開ける。


冷たい空気。


誰もいない廊下。


箱だけ。


私は急いで手を伸ばして中へ引き込んだ。


すぐドアを閉める。


心臓がうるさい。


「……何これ」


箱は軽かった。


リボン付き。


異様に綺麗。


逆に怖い。


私は恐る恐る開ける。


そして。


息が止まった。


中に入っていたのは。


赤ちゃん用品。


小さなベビー服。


哺乳瓶。


母子手帳ケース。


全部、新品。


その上に、一枚の紙。


震える手で取る。


そこに書かれていた文字。


『あなたには必要ないですよね?』


頭が真っ白になる。


喉が苦しい。


視界が揺れる。


必要ない。


──子どもができないから。


──母親になれないから。


遠回しに。


そう言われてる。


「……っ」


呼吸が浅くなる。


胸が苦しい。


頭がくらくらする。


紬が慌てて私の手を握った。


「ママ!」


その声が遠い。


視界が滲む。


苦しい。


苦しい。


苦しい。


「ママ、呼吸して!」


紬の声。


必死な声。


でも。


箱の中が見える。


ベビー服。


小さな靴下。


欲しかった。


何年も。


病院通って。


泣いて。


諦めたくなくて。


なのに。


私はなれなかった。


母親に。


ぽろっと涙が落ちる。


その時。


ブブッ。


スマホが震えた。


通知。


私はぼやける目で見る。


送信者。


星乃ゆめ


メッセージは一言。


『プレゼント届きました?』


数秒後。


もう一通。


『奥さん、もう諦めた方が楽ですよ』


その瞬間。


紬がスマホを見て、凍りついた。


「……うそ」


震える声。


真っ青な顔。


「これ」


紬の唇が震える。


「未来では、もっと後だった……」


空気が変わる。


悪い方向へ。


確実に。


そして。


次に届いたメッセージで、私の血の気が引いた。


『明日、病院来ないなら──全部バラします』

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