未来が変わり始めた
「未来と違う」
紬の顔が、目に見えて青ざめていく。
私は思わず身を乗り出した。
「どういうこと?」
紬は唇を噛んだ。
不安そうだった。
怖がっている。
未来を知っているはずの子が、未来を読めなくなっている。
それが、逆に怖かった。
「未来では……」
紬が小さく言う。
「ゆめママから、直接連絡なんて来なかった」
私はスマホを見る。
星乃ゆめからのメッセージ。
『赤ちゃんの命がかかってるので』
『逃げないでください』
言い方が妙だった。
謝っているようで。
責めている。
逃げるな。
命がかかってる。
まるで、私が悪いみたいな言い方。
「これ……誘導してる?」
ぽつりと口に出す。
紬が顔を上げた。
「え?」
「もし私が断ったら」
私はスマホを見つめる。
「“妊婦を見捨てた冷たい女”って言える」
紬が固まる。
数秒後。
ゆっくり頷いた。
「……ゆめママ、そういうことする」
ぞっとする。
全部、計算?
泣くのも。
謝るのも。
被害者になるのも。
全部。
「気持ち悪い……」
思わず本音が漏れた。
その時。
ブブッ。
また通知。
私は身構える。
星乃ゆめ。
また?
開く。
そして、呼吸が止まった。
送られてきた画像。
──エコー写真。
白黒。
病院名入り。
日時入り。
その下にメッセージ。
『疑ってるなら、これで安心してください』
私は目を細めた。
違和感。
病院名。
日時。
本物っぽい。
でも。
紬の話では、最初の妊娠は嘘。
ネット画像。
じゃあこれは?
「紬」
私は画面を見せる。
「これ、本物?」
紬が覗き込む。
そして。
顔色が変わった。
「……違う」
「え?」
紬が震える指で、画像を指差した。
「これ、未来で見たやつ」
空気が止まる。
「未来?」
「うん」
紬の声が震えている。
「でも、変」
「何が?」
紬は必死に画像を見る。
そして。
ぽつり。
「日付……」
私は目を凝らす。
確かにある。
検査日。
そこに書かれていた日付。
──一週間後。
私は固まった。
「……は?」
ありえない。
未来の日付。
まだ来ていない日。
なのに。
検査済み?
背筋が冷える。
偽造?
それとも。
何?
「これ……」
声が震える。
紬がゆっくり言った。
「未来の写真……?」
私は一気に寒くなった。
未来の写真?
どういう意味?
でも。
確かに。
まだ存在しないはずの検査結果。
「……待って」
私は深呼吸する。
落ち着け。
考えろ。
一番現実的なのは?
偽造。
加工。
作った。
でも。
どうしてそんなことを?
「ママ」
紬が小さく言う。
「ゆめママ、嘘つく時、すごく準備する」
私はスマホを握りしめた。
その瞬間。
また通知。
今度は蓮。
『明日12時、○○レディースクリニック』
『来ないなら、もう終わりだと思って』
心臓が嫌な音を立てた。
終わり?
何それ。
脅し?
さらに。
最後の一文。
『ゆめ、かなり精神的にきてる』
私は思わず笑いそうになった。
乾いた笑い。
精神的にきてる?
私の方が壊れそうなのに。
でも。
その時。
紬が、突然強く私の腕を掴んだ。
「行っちゃだめ」
真剣な顔。
泣きそうな顔。
「お願い」
「でも……」
「絶対だめ」
紬の声が震える。
そして。
小さく言った。
「その病院」
数秒、間。
唇が震える。
「未来で、ママが初めて倒れた場所だから」




