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夫を奪ったアイドルの娘が、なぜか私を「ママ」と呼んだ。  作者: 熊猫ぱんだ


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エコー写真

「そこから全部、おかしくなる」


紬の顔は真っ青だった。


本気で怯えている。


私はスマホを握りしめた。


病院。


赤ちゃん。


確認。


意味が分からない。


なんで不倫相手の妊婦健診に、妻の私が行くの?


頭がおかしい。


「……何のため?」


思わず呟く。


紬が小さく言った。


「証拠」


「え?」


「ママを悪者にするため」


背筋が冷えた。


私は紬を見る。


「どういうこと?」


紬は少し迷った。


でも、ゆっくり話し始める。


「未来で、病院行った」


私は固まる。


行ったんだ。


未来の私。


「ゆめママ、すごく泣いてた」


紬が俯く。


「“奥さんに認めてもらいたい”って」


気持ち悪い。


何それ。


認める?


不倫と妊娠を?


「病院でも録音されてた」


また録音。


吐き気がする。


「しかも……」


紬の声が少し震える。


「ママ、エコー見て泣いちゃった」


胸が詰まる。


……そりゃ泣く。


不妊治療してた。


欲しかった。


何年も。


なのに。


夫と別の女の子ども。


しかもエコーなんて。


見せられたら壊れる。


「それを切り取られて」


紬が苦しそうに言う。


「“妊婦に嫉妬して泣き叫ぶ怖い奥さん”ってされた」


私は何も言えなかった。


悪意しかない。


全部。


最初から。


「最低」


また口から漏れる。


でも。


違和感。


一つだけ引っかかった。


「待って」


私は顔を上げる。


「なんで私を病院に?」


紬が少し黙った。


そして。


ぽつりと言う。


「ゆめママ、不安だったから」


「何が?」


紬は言いづらそうにした。


でも。


小さな声で言った。


「本当に妊娠してるか」


私は固まった。


「……は?」


紬が慌てる。


「ち、違う!」


「どういう意味?」


心臓が嫌な音を立てる。


妊娠してるか不安?


エコー写真見てるよね?


病院も行ってるよね?


なのに?


「紬」


少し強めに言う。


「ちゃんと教えて」


紬が俯く。


そして。


諦めたように言った。


「未来でね」


長い沈黙。


「ゆめママ、一回“妊娠してない”って分かったの」


空気が止まる。


「……え?」


「でも、そのあとまた妊娠した」


意味が分からない。


頭が追いつかない。


「何それ」


紬の声が小さくなる。


「最初、嘘だった」


私は息を止めた。


──嘘?


「妊娠、してなかったの?」


紬がゆっくり頷く。


「でもパパ信じちゃって」


「……」


「離婚、進んじゃった」


鳥肌が立つ。


待って。


じゃあ。


今、蓮が信じてる子ども。


存在してない?


でも。


エコー写真は?


病院は?


「エコー写真、どうしたの?」


紬は少し迷って。


そして。


ぽつりと言った。


「ネットで拾ったやつ」


空気が凍った。


私は数秒、動けなかった。


ネットで拾った?


そんな。


そんなことある?


でも。


もし本当なら。


蓮は騙されてる。


不倫して。


妻を捨てて。


全部失って。


騙されてる。


……ざまあ。


一瞬、そう思った。


でも。


すぐに怒りが勝った。


私の人生は?


不妊治療は?


全部壊された。


たとえ騙されてても。


許せない。


その時だった。


ブブッ。


また通知。


今度は蓮じゃない。


星乃ゆめ


嫌な予感しかしない。


私は開く。


そこにあったメッセージ。


『明日、一緒に病院来てください』


その下。


『赤ちゃんの命がかかってるので』


さらに。


数秒後。


もう一通。


『逃げないでください』


私は眉をひそめる。


逃げる?


何から?


その瞬間。


紬がスマホを見て、顔を青くした。


「……違う」


「え?」


紬の唇が震える。


「未来と違う」


空気が変わる。


嫌な予感。


「未来では……」


紬が、小さな声で言った。


「ゆめママから、直接連絡なんて来なかった」


私は凍りつく。


じゃあ。


今。


何が起きてるの?


未来が、変わってる?


それとも──


もっと悪い方向に?

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